日米金融政策の行方

8/23の衆参両院の閉会中審査での植田日銀総裁の答弁、及び8/22~24に開催されたジャクソンホール会合でのパウエルFRB議長の発言を踏まえて、日米金融政策の行方を分析、日米市場への影響を考えてみる。

<日本>

7月末に日銀が利上げを決定した後、日経平均株価が過去最大の下落幅を記録、外為市場でも7月上旬からの1か月間で凡そ20円円高・ドル安が進むなど不安定な動きとなった。これを受け衆参両院で閉会中審査が行われた。政府与党や野党は円安に伴う物価高への国民の不満に対し、長引く低金利を元凶とみなしていた手前、利上げによる円高は狙い通り。それに伴う過去最大の株安も、利上げ幅が0.15%と主犯とするには小幅だったため、日銀の金融政策を責めるような審査とはならなかった。植田総裁も「経済物価見通しの実現確度が高まれば、緩和度合いを調整する基本姿勢に変わりはない」として利上げ継続を示唆した。日銀は、今後も物価と賃金を注視するとしているが、消費者物価指数(CPI)は7月に前年比2.8%と既に欧米とほぼ同レベルに達しており、今後電力・ガス・ガソリン等の政府による補助金が終了すれば更に0.5%程度の上昇が見込まれる。一方、賃金に関しては6月の現金給与総額が前年比4.5%と、既に欧米を上回る伸び率に達する。物価と賃金の好循環が続くようであれば、植田総裁の発言通り当面は利上げが続こう。氷見野日銀副総裁は講演で「中立金利まで政策金利を引き上げる方針は変わらないが、特定の水準は意識しない」としたが、利上げの到達点としては、自然利子率(▲1.0~0.5%)に予想物価上昇率(2.0%)を上乗せした中立金利1.0~2.5%が目処となる。これを前提とすると、円長期金利(10年)は少なくとも1.5%程度を上回る可能性が高い。

<米国>

パウエルFRB議長はジャクソンホール会合において「労働市場はかつての過熱状態からかなり冷え込んでいる。政策を調整すべき時が来た。利下げのタイミングとペースは、到来するデータ、進展する見通し及びリスクバランスに依存する」と述べ、9月の利下げをほぼ明言した。FRBは物価と雇用のダブルマンデートを標ぼうしており、CPIの前年比3%以下が継続する中、抑制雇用の不調が続くようなら利下げ継続が予想される。利下げの到達点としては、米国の自然利子率(1.5%)にCPI目標値(2.0%)を加えた中立金利3.5%、或いは自然利子率≒潜在成長率(1.8%)との見方もあり中立金利3.8%もあり得る。これを前提とすると、米長期金利(10年)は3.5~3.8%程度が落ち着きどころと見ることが出来る。一方、現状の米債のイールドカーブを見ると、政策金利が5.325%に対し10年金利が3.8%。今後急激なリセッション等が起こらなければ、イールドカーブ全体が3.5~3.8%となるフラット化が予想される。つまり今後は利下げ局面が継続する中、長期金利は小幅低下に留まる一方、短期金利が大幅低下することで逆イールドが解消していくと思われる。

 以上より、日銀の利上げ継続に対しFRBの利下げ開始から、当面は円金利の上昇と米金利の低下が見込まれる。そして日米金利差の縮小に伴い、為替は円高・ドル安の進行が想定される。更に円金利上昇と円高を受けて、日本株は上値の重い展開になる可能性が高いように見える。

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