法規制が阻む日本の技術革新

20世紀後半の日本は、世界経済を自動車や半導体、家電製品などでリードしてきたが、今世紀に入りデジタル技術の普及と歩調を合わせるかのように欧米の後塵を拝する場面が目立つ。高齢化が進む国民と共に経営者も政治家もデジタル技術への理解不足に加え変化を嫌う行動が目立ち、規制や企業内ルールなどが技術革新を阻んでいるように見える。更に人だけでなく法律も高齢化が進んでおり、住宅宿泊事業法や白タク規制等、インターネットやスマートフォンが存在しない時代に制定された法規制が、現代社会に合致しなくなりつつある。

ここでデジタル技術を生かした典型例として、配車サービスのウーバー社と民泊仲介のエアビー&ビー(エアビー)社を見てみよう。

・ウーバー社は2009年に米国で設立され、世界70か国、1万以上の都市で配車サービスを提供する。一方で日本では一般車の配車を白タクとしてタクシー業界が猛反発、政府は搭乗者の安全とタクシー運転手の雇用を守るなど社会全体の利益のためとして、配車サービスを禁止した。その後足元では、運転手の減少や訪日観光客の急増によりタクシーが不足したため、一部地域や時間帯を限定した上で、タクシー会社が運営主体となる形で認可された。但し実労働時間が少ないことに加え、タクシー会社は雇用コストを抑えるため社会保険適用外となる週20時間未満を条件にする例が多く、運転手の成り手は少ない。政府は2024年の「骨太の方針」において、引続きウーバーなどの直接参入の可否判断は先送りとする骨抜きの決定を行った。

・エアビーは2007年に米国で誕生し、世界中のほぼすべての国・地域で利用可能となり、既に8億回ゲストを迎えてきたという。但し日本では旅館・ホテル業界が反発したため、政府は年間180日間以内の営業に制限し事業を認めた。こちらも最近の訪日観光客増に伴う旅館・ホテル不足に加え、地方の空き家対策として注目されるものの、営業日数制限や管理規制により採算ベースに乗せるのが難しいのが現状だ。

世の中では更に技術革新が進み、これら新規ビジネスは既に次のステップに進んでいる。例えば中国の配車サービス企業では、試験的に政府の補助金を受けた無人のロボタクシー400台が街中を走る。利用料金は通常の配車サービスより安いうえ、AIを組み合わせた自動運転技術も日々進歩しており顧客の反応は上々だ。一方で既存の配車サービスの運転手は職を失うとして反対しているものの、自動運転に関して米テスラと伍するほどの技術革新を実現しつつある。日本政府は引続き配車サービスを規制するが、うかうかしていると将来的には中国製ロボタクシーに市場を席巻され、技術革新のチャンスも雇用機会も失ってしまう事態となりかねない。

ところで新規ビジネスに対する既存勢力の抵抗はどの国も同じで、例えばインドネシアでもタクシー業界への配慮から当初運輸省がサービス禁止通達を出した。これに対しジョコ大統領が「誰のための規制か」として通達を解除、現在ではグラブ社やゴジェット社などアジアを代表する配車サービス企業が育った。更にウーバー社が創意工夫と地域密着サービスで好評なグラブ社に東南アジア事業を売却するなど、現地企業を育成するケースも見られる。

こうして見ると、ウーバー社やエアビー社の考案者が日本人だったら、未だに事業化できなかったわけで、日本で新規事業を起こすことがいかに難しいかが分かる。資産と人材の有効活用の観点からも規制緩和が望まれ、日本政府の英断が待たれるところだ。

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