米大統領選と地政学リスク

 米大統領選まで3週間となったが、引続き両候補の支持率は拮抗しておりどちらが勝つか予断を許さない状況が続く。米大統領選の結果は緊迫する中東情勢やウクライナ紛争など地政学リスクにも影響する。ハリス氏勝利となれば現状維持が予想される一方、トランプ氏となれば状況が一変する可能性もある。そこで足元の紛争リスクを確認してみる。

中東情勢…イスラエルが周辺イスラム国家への攻撃をエスカレートさせると、米国民はバイデン政権の指導力弱体化を問題視するようだ。一方でトランプ氏はイスラエル支援を強く主張しており、イスラエルはトランプ氏勝利への期待から攻撃の手を緩めることは無いだろう。最終的にトランプ氏勝利となれば、イスラエルは米国の全面的な協力のもと攻撃を一層激化すると予想される一方、ハリス氏勝利となれば、イスラエルは攻撃を一旦緩め、改めて米政府と協議することになろう。

ウクライナ紛争…トランプ氏の「紛争を1日で終わらせる」との発言が意味するものは、米国が支援停止することを条件に争いを仲裁するということだろう。ここでロシアを説得して全面撤退させることは困難で、ウクライナを説得することになる。ウクライナは西側、特に米国からの支援がなければ戦いの継続は無理で、譲歩を選択せざるを得ず、紛争はトランプ氏の発言通り1日で終わるかもしれない。一方のロシアはこれまでのところウクライナによる予想外の抵抗に手こずっており、西側からの経済制裁に加え、軍事支出の拡大や兵士の死傷者増加が大きな痛手となっている。トランプ氏がウクライナの譲歩を引き出すなら渡りに船だが、譲歩の段階で獲得領土を最大化しておく必要があり、そのため足元で戦力を追加投入しているとも考えられる。

中国問題…中国軍はロシア軍と連携して日本などの領空、領海を侵犯するなど、米国によるアジア圏防衛の本気度を試しているようだ。但し、米大統領の政策が在任期間内に止まるのに対し中国の国家戦略は長期的視点に基づいており、米大統領選への蓋然性を持って行動をしている部分は少ないだろう。香港の中国化をなぞり、既成事実の積み重ねにより台湾併合や周辺領土の拡大をこれまで同様ゆっくりと進めると予想される。

上述の通りハリス氏勝利であれば現状維持が予想されるが、トランプ氏の場合は変動がありそうだ。米だけでなく世界的にも右派人気の高まりが観測され、仏では「国民連合」、独では「Afd(独のための選択肢)」、オーストリアでは「自由党」などの極右政党が躍進、日本でも右寄りとされる高市氏が自民党総裁選で敗北したものの有力視された。極右の特徴としては、ある特定の国や人種を敵とみなして人民を煽る所にあり、一歩間違えると戦争へと突入してしまうリスクもある。

もともと領土拡大は動物の本能なので、人類も歴史上は争いが途絶えたことはほぼ無く、第二次大戦後の比較的平和な時代が稀有なのかもしれない。文明進化とともに紛争は減るとの見方もあったが、既に大戦後約80年が経過し、戦争の悲惨さを実体験した戦中世代の減少が足元での右傾化の主たる要因に思える。また若手中心の多くはドローン(無人機)攻撃など戦争リスクをあまり恐れる必要がないため、右派の分かり易い戦略にゲーム感覚で同調しているようにも見える。一方で先進国は高齢化が進み、古き良き時代を懐かしむ一方で現状を受け入れづらくなる人も多くなり、排他的意見に同調して右傾化し易いのかもしれない。 

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