石破新政権の経済政策
先日の特別国会で石破首相続投が決まった。一方で決選投票で勝利するため、野党国民民主党の協力を要する形となり、足元では自公と国民民主は政策協議を続けている。そこで国民民主党が求める主要政策を検証してみる。
賃金引上げ…国民民主だけでなく各政党が掲げる政策目標。日本のバブル崩壊後のデフレ経済は、効率化を目指したコストカット型経営がもたらした面がある。例えば、当時の日産自動車が名経営者として迎え入れたカルロス・ゴーン氏の徹底した経費削減が、現在の苦境につながったとの分析もある。コストカット戦略の流行により若者の失業が増加し労働意欲は低下、また研究開発費の削減は商品競争力を削ぎ、結果として労働力の減少、更にはイノベーション欠如にも繋がった。そして成長が止まっている間に、先進国の中でもひと際物価が安く、賃金も安い国となった。ところで、基本的には民間賃金引上げは政府ではなく各雇用者が決めることであり、政策には当たらない。政府として実行すべき政策は公務員給与の引上げであり、「先ずは隗より始めよ」だろう。因みに、大企業の労働分配率は50%と賃上げ余地が相応にあるのに対し中小企業は80%と余地は乏しい。つまり企業数で99.7%、従業員数で7割を占める中小企業の賃上げには収益力のアップが必須である。中小企業は人材確保や研究開発費などで大企業に劣後することが多いため、収益力向上にはイノベーションとともに規制緩和が必要、ここに政府の出番がある。にもかかわらず歴代政権は、タクシー業界(ライドシェア導入)や通信業界(新規参入)など多くの分野で、大手企業を規制により保護してきた。つまり政府が成すべきことは、他人任せの賃上げ合唱や不況業種への補助金ではなく、規制緩和と成長マネーの供給だろう。
103万円の壁…所得税にかかる基礎控除+給与所得控除の年収上限を、現状の年103万円から178万円へ引上げることで減税を目指す。労働の増加に加え、4~8兆円と試算される減税分の消費活動の活発化がGDP上昇に貢献すると期待される。但し、次の壁として106万円(社会保険料)、130万円(同)、150万円(配偶者控除)が控える。実はこのように壁は多く、実際の手取り額は比較的スムーズに年収額に比例しており、本来変えるべきは壁の金額ではなく国民の理解度と言える。
消費税減税…消費税率を8%へ引下げるとするが、それで不足する税収は約6兆円。詳細未定のまま補正予算13兆円超を掲げた石破首相からみれば少ないが、恒久減税となれば話は別である。消費税は地方分1%を除き全て社会保障費に充当される。因みに社会保障費は約40兆円と税収70兆円の約6割を占め、その8割が高齢者向け。例えば高齢者の医療費は1割負担なので、残りは税金と健康保険が約半分づつ負担する。つまり消費税減税は所得税など代替税引上げと健康保険料の増額により、若者の手取り賃金の減少に繋がる。今後、少子高齢化により高齢者の増加と労働者の減少が予想される中、歴代政治家が苦労して引上げた消費税の減税は避けるべきだろう。
物価対策…これも各政党が好んで掲げる政策。国民民主が主張するガソリントリガー条項は、1ℓ当たり160円を超えた場合、現在の税金53.8円を半分にするもので、現行の170円(1月からは185円)超過分を全て税金で補填するよりは補助額に上限がかかる。但し、ガソリン代を補助金で補填するとEV、FCVなどの開発普及を阻害、また石油購入代金は国外に流出するだけとも言える。一方で物価全般に関しては、賃金を引上げれば購買力が向上、物価が上昇するのは日銀が指摘するように好循環であり、長期的に賃金が上がるのであれば、物価を抑制する必要はなくなる。
漸く賃上げが国民共通の目標となったのだから、実現に向けた最適な政策を期待したい。
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