民主主義とポピュリズム

米大統領選では米国ファーストを掲げ、有罪判決を受けながらも対抗勢力への憎悪をむき出しにして選挙戦を戦ったトランプ氏が完勝した。多くの西側諸国首脳が、時に露のプーチン氏や独の旧ナチス政権をも認める発言をする人物が米国大統領に選出されたことに対し衝撃を受けた一方で、ハンガリーのオルバン首相やオランダ「自由党」、独「AfD」、仏「国民連合」などの極右政党は歓迎を表明した。ここで近年、自国第一主義を掲げる勢力が各国で台頭している現象について考えてみる。

そもそも自国第一主義を掲げれば国民の受けは良い。更に減税や補助金などのバラマキ政策はポピュリズム(人気取り)政策として自国第一主義と相性が良く、民主主義国家の多数決制度では選挙に有利に働く。但し、これまでの選挙では異なる結果が多かった。背景には、国民がこれら政策の負の側面への懸念を持っていたからと考えられる。例えば自国第一主義を貫けば国際社会で孤立することになり、また国債発行を原資にお金をバラまけば将来世代が返済しなければならない。つまり最近は、自国さえ良ければ良い、或いは次世代への負担転嫁にも肯定的で、他人や将来のことなどを心配する余裕がない人の割合が増えているのかもしれない。

世界第1位のGDPを誇り、富と権力を独り占めしているかのように見える米国で、このような考え方が蔓延するのは意外だが、実は米国社会の分断が進んでいるとの指摘がある。例えば米国民の寿命を学歴ベースで大卒(国民に占める割合:38%)と非大卒(同62%)に分けて他の先進国と比較すると、大卒の寿命は世界トップ水準にもかかわらず、非大卒者の寿命は大卒より10歳短く、先進国平均を大幅に下回る。この背景には非大卒者の麻薬中毒や自殺など絶望死の増加があると見られ、国民の6割が日常生活に失望するようであれば、他人の心配どころではない。ここで金銭面(図1)からも検証してみる。米国の2006年から2023年にかけての世帯収入の変化を見ると、好調な経済の影響で直近10年間で年収20万ドル(3千万円)以上の世帯比率は大幅に増加、代わりに10万ドル以下の世帯は減少しており、米国民は全般的に裕福になったように見える。但し、この期間のインフレ率(1.5倍)を加味すると景色が変わる。仮に2006年当時の貧困層を5万ドル未満とするとその比率は36%だが、インフレを加味すると2023年の貧困層は7.5万ドル未満となり比率は47%まで上昇。つまり国民の約半数が貧困であれば他人のことなど心配する余裕は無く、国民は選挙で変化を求めることになる。

こうして見ると、富の偏在とインフレ高進が貧困層の比率を引上げ、結果的にトランプ次期政権を生んだと見ることもでき、極右政党が台頭する欧州各国でも同様の現象が起こっている可能性がある。今後は自国第一主義のぶつかり合いが、過去の世界大戦時のように国家間の武力衝突へと繋がるリスクには注意が必要だ。

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