日本の政策は異次元
日本は通常の政策では長期にわたるゼロ成長から抜け出せなかったことから、最近の政策には「異次元」の形容詞が付くことが見られる。代表例としては「異次元の少子化対策」や「異次元緩和」がある。
異次元の少子化対策…石破首相は、少子化とその結果生じる人口減少は、国の根幹にかかわる課題、いわば『静かな有事』であると指摘した上で、岸田政権から続く「異次元の少子化対策」として①若い世代の所得向上、②共働き共育ての推進、③全ての子育て世帯を対象とする支援の拡充、といった取組みに力を入れていくことを訴えた。初婚同士の夫婦が持つ子どもの数は1970年の2.1人から2022年の2.0人でほぼ横ばいだが、婚姻数は同じ約50年間で半減した。つまり少子化の主因は、実は子の減少ではなく、「未婚化」と言える。結婚しない理由としては、自由と気楽さの確保に加え、経済的理由が挙げられる。しかしながら、「異次元の少子化対策」は主として子育て世代を対象とする。本丸である未婚の若手世代からの意見を聞くと、保育無償化、小中学校の給食費補助や高校無償化、子供医療費の無料化と言われても、そもそも子供はいないし、却って税金と社会保険料は増えるので効果を感じられないという。少子化対策の本丸である結婚予備軍にとって、子供誕生後の異次元の政策であり逆効果のようだ。
異次元緩和…異次元とされる金融緩和策は日銀によって2013年に開始された。デフレと低成長から脱却することを目的に、国債の大量買入れやマイナス金利政策、ETFやJ-REITの買入れなどが実施された。今年発表された日銀によるレビューでは、「国債の市場機能への影響など一定の副作用はあったが、全体として経済にプラスの効果があった。それでも異次元緩和で用いられた非伝統的な政策手段(国債の大量買入れなど)の効果は、伝統的な政策手段(短期金利の上げ下げ)よりも不確実である」と予想外に厳しい評価だった。確かに、マイナス金利が導入されても一般人がマイナス金利で借金できるわけはなく、資金運用を担う金融機関と貯蓄を多く持つ個人に対するペナルティとなる一方、国の借入れコストは減少、大半の国民にとっては正に異次元での出来事だった。結果的に見ると、経済学の授業で必ず習う、「流動性の罠」(金利が低下すると金融緩和の効果が薄れる)や「MMT」(現代貨幣理論:国債をいくら発行しても財政破綻は起きない)の実験を行った形だったともいえよう。筆者としては、実験結果としての30年にわたるゼロ成長を経てもなお、足元で金融緩和再開と財政支出拡大を叫ぶ識者が散見されるのは驚きである。但し、賛否両論のあるETFの買入れに関しては、巨大な含み益とともに日銀のバランスシート健全化に大きく貢献しており、黒田前総裁の胆力と相場観は異次元とも言える。
さて、異次元と評価される政策は、当然ながら相当な違和感がある。そして異次元の形容詞が付かなくとも、近年の政府政策は一般常識からずれている。例えば、足元では国民が悲鳴を上げる物価高対策として、全国民に5万円の現金給付案が浮上するが、お金をばらまくと基本的に物価は上昇する。また物価高政策と称するガソリン補助金も、原油輸入量高止まりで円建て支払い代金増となり円安を加速させる。加えて、ガソリン車からEVなど新エネルギー車へのシフトを抑制することで、新しい技術開発やEV、水素ステーションなどのインフラ整備意欲を後退させる。また足元では、農業を守るとして減反政策を進めた挙句、お米がスーパーから蒸発し令和の米騒動を勃発させたにもかかわらずなぜか輸出促進策を進めるなど支離滅裂である。例えば、米国が指摘するコメ関税700%(≠実効税率)を引下げ、相互関税の減免交渉に活用するくらいの英断があっても良さそうである。そろそろ政策を3次元実社会で効果あるものへと変更する時期だ。
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