トランプ政策の世界株への影響
トランプ政権による関税政策の矛先は主に中国であり、対中関税引上げにより米国GDPは上昇、中国GDPは低下が予想され、米国の世界覇権の座は安泰となるはずである。一方で米中関税合戦によりお互いの商品売上は減速するが、その穴を他の地域、国家の商品が埋めることになる。つまり代替商品を扱う国にとってはチャンスでもあり、その商品領域はエネルギーやレアアースなど資源から日用品や食糧まで多岐に渡ろう。
トランプ氏は関税だけではなく、教育や移民政策などでも大鉈を振るう。特に教育に関しては、有名大学への補助金減額や外国人留学生への差別的政策もみられ、米国から優秀な人材が流出する可能性がある。日本の明治維新後や第2次大戦後の復興、最近では教育熱心な中国、韓国、シンガポールなどの台頭に見るまでもなく、国家の長期的繁栄には教育が必要条件である。米国でも、第2次大戦期にユダヤ系科学者が、冷戦終結後は世界中から優秀な頭脳が集まり繁栄の時代を迎えたにも関わらず、今後はトランプ政策により転換点となりそうだ。優秀な人材は資金が豊富で比較的リベラルな環境を好む傾向があり、移住候補先としては欧州に加え日本、シンガポールそして印などが挙げられよう。
図1は昨年末からの、米、中、日、独、ブラジル、英、印の株価推移の比較。これを見るとパフォーマンスの良い順に、独、ブラジル、英、印となり、その次に関税合戦の当事者である米、中と続き、日本が最下位となる。つまりトランプ政策の被害者は米、中、日で、「漁夫の利」は独、ブラジル、英、印といった見立てになる。確かに、独は財政支出拡大への政策転換とEUの自由貿易圏を主導する振舞いが好感され、ブラジル、印は中国への穀物輸出や米国への電子部品輸出の代替先としての「漁夫の利」が期待できる。更に、世界の大学ランキングを見ると、米中を除くと欧州が多く、EUは即座に5億ユーロの研究者誘致資金を用意するなど、米中からの頭脳流出先としての誘致を進める。
翻って日本を見ると、対米駆込み輸出が見込まれた1-3月期GDPはマイナス成長、米関税交渉に進展がないと輸出減で4-6月期もマイナス成長となり、テクニカルリセッション入りのリスクも燻る。当初は対米貿易協議の先頭ランナーだったはずが、未だ難航中。石破政権は自由貿易圏形成を主導するどころか支持率が低迷、参院選での政権交代の可能性もある。加えて、参院選後に政権が消費税など減税策をとれば、英トラスショック同様のトリプル安リスクもあり、日本株の上値は重そうだ。
トランプ政策により日本経済は惨事に見舞われるとも言えるが、世界経済から見ると米中に集中し過ぎていた富(米中で世界GDPの4割)と頭脳が分散されるとも言え、必ずしも目標のMAGA通りではないかもしれないが、トランプ氏の意外な功績として歴史に名を遺す可能性もある。
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