自民党総裁選(注文を無視する料理店

石破首相は7日に自民党総裁辞職を表明した。世論調査では、石破内閣支持率は上昇しており、自民党総裁選実施への賛同も過半数割れであったにも関わらず、党内の首相退任圧力に屈する形での辞任となった。最近の自民党を眺めると、これ以外にも世論と党内の意思決定との乖離が目立つ。たとえば、江藤前農水大臣が新設された「農業構造転換推進委員会」の委員長に就任した件である。本来なら「構造転換」とは、過去のしがらみを断ち切り、新たな農政の方向を示すべき言葉である。しかし実際に就任した顔ぶれを見ると、小泉農相がコメが高すぎるとして進めた改革が気に入らない過去のメンバーが、産業構造を転換して元に戻すことを目指しているとしか思えない。

今回も、「裏金議員」とされる一群が石破首相退任決議を推進したことにやや違和感を感じる。世論調査を無視した「退任せよ」という党内の声には、裏金問題を抱えた選挙戦での敗北を民意として責任を首相へと転化することで、自分達への悪評や懲罰に対する仕返し的な政治姿勢すら感じられる。

こうした動きは、自民党全体の「自浄能力の欠如」を示している。自浄能力とは本来、自らの汚れを自分で落とす力を指す。しかし現状では、問題を抱える議員がむしろ積極的に「改革」の旗を掲げる。これは世間の常識を無視して、泥棒が自ら警察官を名乗るようなおかしな光景である。もちろん、政党は一枚岩ではなく、異なる意見があって然るべきだ。しかし、世論から大きく乖離した異論がまかり通る光景は、健全な緊張関係を生むというより、むしろガラパゴス化した党内論理に縛られた自己主張に映る。今の自民党の一部は、世の中の意見を取り込む感度を失っているようだ。

さて、世論中心値とのずれは自民党だけではない。先の参院選では「日本ファースト」など、一見過激とも見える公約を掲げる新興政党が票を伸ばした。他にも「NHKをぶっ壊す」、「共産主義を目指す」など、従前からの様々な公約を掲げる党も並ぶが、自民党の世間ずれした行動と比較すると、投票先に悩まされる国民の心境は「どの店も味が濃すぎるラーメン横丁」に迷い込んだ客のようだ。さらに驚くべきは、参院選前に消費税減税や給付金などのバラマキ政策に否定的な意見が世論の過半を占めたにもかかわらず、与党を含めたほぼ全ての政党が減税と給付金を公約に掲げた点である。ここでも“民意スルー”が横行し、選挙戦はまるで「観客の注文を無視して、勝手に料理を出す料理店街」のような有様であった。

今後、全国自民党員を対象(フルスペック)とするのであれば、総裁選は10月が予想される。選挙は、昨年総裁選で上位につけた高市氏と小泉氏による争いが軸となるとみられ、両氏以外の候補として林氏、小林氏、茂木氏、河野氏、加藤氏などの名前が挙がる。ただし総裁選で勝利しても、自民党は少数与党なので、野党が協力すれば新首相が野党から選出される可能性もゼロではない。与党自民党が真の自浄作用を発揮できるかどうかは、外部の批判に耳を塞いで内輪もめに終始するのではなく、国民世論を素直に受け止める力を取り戻せるかにかかる。しかし、その兆しが現れるまで、あるいは国民に耳を傾けつつ納得できる公約を掲げる新たな政党が出てくるまで、私たちはしばらく「濃すぎるラーメン」、あるいは「勝手に出される料理」を食べながら凌ぐことになりそうだ。

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