厚生労働国

日本の65歳以上の人口は29.3%に達した。都市部で働いていると実感しにくいが、平日日中に地方駅周辺を歩くと高齢者比率は高い。さらに病院に行くと、待合室から会計に至るまで高齢者でごった返している。高齢者は免疫力や治癒力の低下により通院頻度が高く、自己負担は原則1~2割に抑えられている。一方、残りの8~9割は主として現役世代が負担する。国民健康保険だけでは到底賄いきれないため、健康保険組合からの支援金や税金が投入される。患者負担1割の後期高齢者を例にとると、国民健保と健保組合が4割を負担し、残り5割(高額医療ではほぼ全額)を国が負担する。健保組合では現役加入者の医療費需要が低いため、拠出金の44%が高齢者医療支援に充てられている。これら制度全体の設計と監督を担うのが厚生労働省(厚労省)である。

厚労省は医療に加え、年金や介護といった社会保障全般を統括しており、その年間支出は約140兆円(年金60兆円、医療費48兆円、介護費15兆円、その他17兆円)にのぼる。これは日本の国家予算約120兆円を上回る。国の下部組織である1省庁の予算が国家予算を上回るのは不思議な気もするが、実は国家予算のうち厚労省に直接配分される社会保障関連費用は40兆円。残金100兆円を賄うため、厚労省は国民から税金とは別枠で年金や健康保険、介護保険料などを徴収しており、もはや国である。さらに、資金過不足に備えGPIFや保険組合なども駆使している。

最近の選挙では、可処分所得減少が政治的争点となったが、実は失われた30年間に所得税は引下げられ最高税率は75%から45%になった。にもかかわらず、厚労省が統括する社会保障関連の負担が増加したため、結果として手取りは低下し続けた。給与明細で社会保険料が税額を上回る例も多い。さらに1989年にスタートした消費税も社会保障関連の財源とされ、足元の消費税収25兆円は国家予算の社会保障関連費40兆円の約6割を占める。こうした中で「給料は増えないのに負担ばかり増える」「国は税金をごみ箱に捨てている」として財務省解体デモが流行っているらしい。しかしながら、現役の負担増は社会保障費増に基因し、税収80兆円に関しても、その半分となる40兆円が社会保障関連費に充てられる現状において、デモは厚生労働省前で行うべきかもしれない。ただし、厚労省も社会保障制度により弱者を守っているだけで、実際には、厚労省の社会保障支出140兆円のうち高齢者向けが105兆円と7割を占める。つまり高齢化社会が根本的な問題なのだ。

さて、国家財政を企業に例えるなら、税収は収入、社会保障費は投資とみなせる。だが厚労省支出の大部分を占める高齢者向け給付は、非課税世帯が多いことから税収増には直結しにくく、消費による税収増程度しか期待できない。60歳以上が国民の金融資産2,200兆円の6割以上を所有し、土地などの資産を含めると高齢者はさらに裕福で、消費税減税は過剰サービスとも言えよう。消費税以外の高齢者から国への還流としては、贈与税と相続税があり、政府は相続前贈与基準や相続税回避の海外送金への規制を強化している。

結論として、厚労省はすでに国家予算を超える事業規模を抱え、一省庁としては過大な負担を背負っている。過去には年金記録5,000万件の紛失といった不祥事もあり、制度運営には構造的な限界がある。医療・介護省、年金省、労働省といった機能分割を行い、それぞれの予算を国家予算規模以下に抑えることが、過剰医療や世代間対立を緩和し、持続可能な社会保障制度の第一歩となるだろう。

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