銅価格上昇と通貨

近年、再生可能エネルギー関連や電気自動車(EV)の普及を背景に銅の需要が増加し、銅価格は過去最高を更新した。その結果、銅メッキを施す米1セント硬貨は製造・流通コストが額面価値の4倍近い3.69セントに達した。このため、トランプ大統領は2月に製造終了を命じ、米造幣局は11/12に最後の1セント硬貨を製造した。日本でも1円玉の製造原価が額面以上なのは広く知られるが、足元の銅価格上昇と円安の進行により、銅を主原料とする5円玉、10円玉の製造原価も額面を超えつつある。

表1.日本の硬貨と製造原価

硬貨 1円玉 5円玉 10円玉 50円玉 100円玉 500円玉

製造原価 3.1円 6.3円 7.8円 20円 25円 30円

現在の5円玉は、戦時中の薬莢など黄銅(真鍮)製軍需品を再利用する形で、1948年に登場した。黄銅は、銅と亜鉛の合金で5円玉の重量は3.7g。銅価格が現在1.7円/gなので、5円玉の製造原価は3.7g×1.7円≒6.3円となり、1円玉同様すでに額面を上回る。一方、10円玉の原料は青銅で、銅を主成分に、すずや亜鉛を少量加えた合金。製造原価は約7.8円と額面を下回るものの、設備費や流通費を加えると原価はほぼトントンとなる。1円玉と5円玉は、取得後に溶融して原材料として売却すると利益が出る状態であり、コストを無視すれば裁定取引が成立し得る。

通貨の裁定取引として有名なのは、江戸末期の金銀取引だ。当時、世界の金銀価格比15:1に対し日本の金銀価格比は5:1だった。そこで、海外から持込んだ銀を金に交換する裁定取引が大量に行われ、「黄金の国」と呼ばれた日本から大量の金が流出。一方で、近年世界遺産となった石見銀山は、最盛期には世界の銀産出量の約3割を占め、20万人が暮らす一大鉱山都市だったが、その後、産出量減少に加え、裁定取引に伴う銀の大量流入も影響し衰退。現在では約400人が暮らす静かな集落となった。人口20万人の大都市から、400年かけて寒村となった時の流れが、良好に保存されている点が世界遺産となった評価ポイントの一つだ。ただし、遺産登録当初に年間30万人訪れていた観光客数は、近年では減少傾向である。通貨の裁定取引を政治的に応用した例としては、江戸時代の5代将軍綱吉による金貨の品位引下げが挙げられる。金含有量を減らすことで通貨発行量を増やしインフレを誘発すると同時に、新旧金貨の強制交換を通じて政府に通貨発行益(シニョレッジ)をもたらした。

さて、銅価格が高止まりし、かつ円安が進行した場合、外国通貨で日本の5円玉や10円玉を購入し、精錬した銅を売却すると利益が生じる可能性がある。その結果、今度は日本から大量の銅流出となるリスクが生じ得る。ただし、日本では硬貨の溶融は法律で禁じられている。

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