ハイパワードマネーと成長マネー

日銀のマネー供給としては、①国債買い入れ(QE)を通した財政支出や銀行貸出増による乗数効果を狙ったハイパワードマネー供給と、②経済成長に伴う成長マネー供給がある。

<①ハイパワードマネー供給>日銀は年約80兆円のハイパワードマネー供給増を掲げ国債を購入している。ところが、図1を見ると日銀の国債買い入れは、民間銀行B/S上の国債を日銀に移植し代わりに日銀当預としただけ。また本来は国債を財源とする財政支出を通じマネーの乗数効果が期待できるはずだが、財政支出(一般+特別会計)を 2000年と2018年で比較してみると、400→500兆円と100兆円増加しているが、うち60兆円は社会保障費増加分である。一方で金融資産の6割以上を持つと言われる高齢者はタンス預金を増やしており、結局社会保障関係支出は7割が高齢者タンス預金、残りは主に医療・福祉関係に流れている。日銀ハイパワードマネーの乗数効果はあまり働いていないようだ。

次に、民間銀行による貸出(ハイパワードマネー)は400→500兆円へとこちらも100兆円増加しているが、企業の手元流動性が130→270兆円へと140兆円増加しており、40兆円のネット借入減。

結局、日銀・民間銀行のハイパワードマネーの乗数効果による経済成長はあまり機能していない。

<②成長マネー供給>次に日銀券発行残を見てみると、50→100兆円へと50兆円増えているが、タンス預金も40兆円増加しており、市中に出回るマネーは増えていない。一方でGDPは520→570兆円で50兆円増加しているので日銀券不足から日本円の価値が上昇している(デフレ・円高要因)。一般に大量の銀行券増発はハイパーインフレを引起すとされるが、マイナス金利下においてはタンス預金など銀行券の溜め込みが急増するため、GDP成長以上の成長マネー供給増が求められるようだ。

<結論>現在の日本でGDP成長と物価上昇を図るなら、日銀券のさらなる増発を財源に若年層をターゲットにした財政支出拡大という処方箋が有効に見えるが、それが現代金融理論(*MMT)とも言えよう。


*MMT:米国で最近流行の財政赤字拡大を容認する金融理論。火付け役は民主党のオカシオ・コルテス下院議員やバーニー・サンダース上院議員で、共に医療保険等の社会保障制度拡充や温暖化対策等への支出を増やす、一種のバラマキ政策を掲げる。財源としては、すでに財政赤字に警戒感が広がるにも拘らず国債増発を想定しており、世界の基軸通貨ドルで借金ができる米国に財政破綻はあり得ないとし、その類似例としてドル以上の避難通貨を持ち国債発行残がGDPの2倍となっても金利が上昇しない日本を挙げている。

財政支出拡大を続ければ借金増とハイパーインフレが容易に想像つくが、MMTではインフレ急伸前に政策を元に戻せばよいとしている。歴史的に見ても難しい舵取りと思われ、パウエルFRB議長、イエレン元議長、ローレン・サマーズ、ポール・クルーグマンなど主流派経済人はほぼ全員MMTに批判的だ。   

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