日銀のETF購入

日銀は金融緩和策の一環として2010年12月よりETFおよびJ-REITの買入れを開始した。そのうちETFは年6兆円のペースで買入れた結果、保有残高は25兆円程度まで拡大し、上場企業の約50%で日銀が大株主となるなど市場に大きな影響を及ぼしつつある。ETF買入れに対する内外投資家等の評判は芳しくなく、OECDは「市場の規律を失いつつある」と懸念を示しているが、その影響と今後の出口策を考えてみる。

<流動性低下>表1は日銀が筆頭株主と見られる企業上位10社。日銀の実質保有比率が多い企業で15%だが、即座に売却する予定はなく、適正価格近辺での取引のため(価格発見機能)なら残りの85%でも十分だ。需給は多少逼迫するが、信用売り等の手段もあり現状は流動性に問題はない。さらに日銀は日経平均型ETFだと225社に購入が集中するとして主たる投資対象を日経からTOPIXへと変更したうえ、ETFの貸出を可能とすることで売方の利便性を高めるなどの措置を取った。図1は日経平均と実質保有上位5社の株価推移だが、企業株価は日経平均以上に下落しており、需給が逼迫している様子は今のところ全く見られない。一方で、業績に拘わらず幅広く株式を購入するため、市場の売買高が少なく毎年のように赤字を計上しているような中小型株の株価が下がりづらいという弊害が指摘される。

<日銀の損失懸念>先日雨宮副総裁が日銀保有のETFの簿価は18,000円と国会で発言した。2010年以降に受取った配当総額は凡そ1兆5千億と思われ、過去の配当込損益分岐点は17,000円となる。現在の株価から計算した日経17,000円時点のPBRは約0.8倍で、リーマンショック時の0.9倍をさらに下回る。つまりリーマンショック級以上の危機がない限り、日銀にとってETF購入は損失とならない。

<出口戦略>日銀は2002年~2004年(金融システム安定化のため)と2009年~2010年(国際的な金融システム混乱を受け)の2回、金融機関から保有株式の買入れを行ったことがあり買入れ総額は約2.5兆円。現在は計画通り2016年から2026年まで10年かけて売却中である。一方現状のETF保有残は約25兆円で当面増加しそうなことから、同様に市場への影響に配慮すれば100年近くかけてゆっくり売却していくことになる可能性がある。つまり企業の永久劣後債に投資している形に近い一方、インデックスなので倒産という事態はほぼなく、その間も配当は見込めるうえGDP成長に歩調を合わせて株価が上昇すれば過大な損失は想定しづらく、中小型株の流動性問題はあるがしばらくは継続可能と思われる。


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