年金不足2000万円
金融庁が6月初めに公表した「高齢社会における資産形成・管理」の報告書をめぐり波紋が広がっている。寿命を95歳としたとき、平均支出総額に対する年金支給総額の不足分が2,000万円とされ、日本の年金は100年安心ではなかったのかとの物議を醸している。当欄5/13日号では、ゆとりある生活のためには4,200万円必要と書いたが、民間企業に属していて良かったと若干ほっとしている。
<100年安心?> 100年安心とは、「100歳まで年金だけで安心して暮らして行ける」という意味ではなく、「2004年の年金制度改正により、むこう100年間は生涯賃金の50%程度を年金として支払う事が可能となったので年金制度は安心」という意味。現在の平均月収36万円に対し年金支給額の世帯平均が月19万円なので、制度改正から15年経っても約束は凡そ守られている。
<平均世帯は問題ない> 報告書で不足とされる2,000万円だが、現状の平均値を載せただけなので必ずしも金融庁の間違いではなく、都合の悪い真実を公表したことが責められているようだ。報告書を読むと、あたかも65歳退職時に2,000万円の貯蓄が必要と捉えがちだが、これは月々の平均的な年金収入額と支出額の差額5.5万円に平均余命30年を掛けた数字。一方、2人以上高齢世帯の平均貯蓄額は2,484万円なので、平均的世帯は現在何ら問題ない。逆に余命を考えながら貯蓄を計画的に取崩していると思われ、貯蓄額が支出と年金の差額より若干高く、長生きリスクを考慮して支出をコントロールしている様子がみてとれる。つまり年金に加え、貯蓄を余命で使い果すよう計算された結果の支出額である。
<貯蓄が足りない?> 自分は貯蓄が足りないという意見もあろうが、これも平均的には大丈夫である。50代の平均貯蓄額は1,050万円と足りないようにもみえるが、退職金がある。平均的に8割の企業が退職金制度を用意しており、退職金平均額は1,850万円。残り2割の企業の退職金がゼロとしても、平均退職金支給額は1,480万円となり、50代の貯蓄1,050万円と合わせ退職時2,530万円となる計算。
<平均以下の場合> 表1は平均的高齢者世帯の支出と収入の内訳。退職時貯蓄が平均に届かない場合はいずれかの支出を平均以下に抑える必要があるが、あまりに貯蓄が少なく年金ももらえない場合は生活保護となる。60代生活保護夫婦に対する支給額平均値は月15万円だが、税金・医療費は基本的にかからないので実質的に年金収入と大差がなく社会保障は充実している。かえって手厚い生活保護をあてにして年金を支払わない国民が多いことが、国家予算のうち社会保障費の増加を加速している。
<平均以上を目指す> 平均的な教養娯楽費以上にもっと遊びに支出したい、あるいは食事や住居に少し贅沢したいなどとなるとさらに貯蓄が必要となる。そのようなゆとりある生活のために必要な貯蓄は平均約4,200万円だったので、平均貯蓄額との差額約1,700万円を追加で作る必要がある。前回同様逆算により日経平均への投資額を求めると、通常の貯金に加えて1,700万円を作るために必要な金額は、1989年から30年間については毎月2.5万円となる。報道後にはNISAと積立NISAの申込が増加しているようで、皮肉にも金融庁の狙い通りとなっているようだ。
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