綻ぶ年金制度
5年毎に行われる年金の定期健診と言われる公的年金制度の財政検証結果(レポート)が発表された。レポートによると、今後の経済成長を0%としたケース5の場合、所得代替率(=年金額÷現役平均手取り額)は現在の61.7%から2058年に44.5%まで低下する。経済成長とともに物価上昇率も0%と仮定し、この結果を先日の金融庁による老後資金不足額2,000万円の試算に適用すると、2058年頃に60歳で退職する世代は年金受給減額分2,500万円がさらに不足と計算され、合計すると退職時に4,500万円の金融資産が必要となる。2,000万円でも物議を醸したが、4,500万円となると最早個人の運用努力によって解決できる額ではなく、前提条件を見直す必要がありそうだ。
前提条件の見直しとして最も有効なのは①人口増加だが難易度は高く実現に時間がかかる。次に②経済成長だが、物価上昇が伴うと支出も上昇するため一発解決とはならず、レポート中の最も高い経済成長率0.9%(ケース1)でも所得代替率は51.9%まで低下する。③運用利回り上昇に関しても、金利上昇つまり物価上昇を伴っている可能性が高く解決となるかは不透明。効果的なのは④労働期間の延長で、レポートによると今の65歳と同水準(61.7%)の年金をもらうためには退職年齢を67歳まで延ばせばよいらしい。他に奇策とされる⑤年金財源への直接ミルク補給がある。
実は⑤のミルク補給として、年金支給不足分にはすでに税金が投入されており、国民年金では支給総額の45%分となる2兆円、厚生年金では19%分の8兆円、合計毎年約10兆円の税金が財源として補填されている。ここで今後5年間の年金不足分として政府が50兆円をMMTあるいはヘリマネにならい紙幣増刷にて賄い拠出してはどうか。一般的にMMTはハイパーインフレをもたらす異端理論とされるが、そのほぼ逆の効果をもつタンス預金を糾弾する意見はあまり聞かれない。紙幣増刷がハイパーインフレをもたらすのであれば、忘れ去られるなどして長期間に及ぶタンス預金はハイパーデフレをもたらすはずだ。デフレ圧力に悩む現在の日本において真っ先に議論されても不思議ではないが、日銀券発行残100兆円の約半分がタンス預金化していると言われるにもかかわらず、足元のデフレ圧力はハイパーではない。つまりタンス預金相当額50兆円分程度を紙幣増刷して年金財源に投入しても逆にハイパーインフレは発生しないと予想される。そして④⑤の対策により年金を延命させる間に本命の出生率をゆっくりと上昇させて、再び人口増加プロセスへと戻すというのはいかがか。結果、祖父祖母から孫たちへの支出の形でタンス預金が焙り出されれば、その分日銀券発行残を減らせばよい。
難しいとされる万が一のインフレ急上昇時の増税は、今回の消費税増税のようにポイント還元のセットとすることで容易にする。つまり、来年以降も数回に分けて消費税増税と時限措置としてのポイント還元をセットで実施し景気にニュートラルとする一方、インフレ率上昇時に時限措置のポイント還元を停止することで消費税による増税効果を発揮させる。増税にナーバスな日本国民も時限措置としてのポイント還元停止であればある程度納得しよう。
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