中東情勢緊迫化

去る1月8日にイランがイラクの米軍基地をミサイル攻撃したことで中東情勢が急速に緊迫化し、本格的戦争リスクが高まった。ここで米・イランの軍事的対立へ至った経緯を時系列で見てみる。

2019年6月13日:中東オマーン湾で日本のタンカーが襲撃され、米国はイランの関与を指摘

2019年6月20日:イランがホルムズ海峡付近の米ドローンを撃墜

2019年11月:イラクとレバノンで腐敗と格差拡大への不満から実質的支配国であるイランに反発するデモが勃発。イランでもガソリン値上げをきっかけに若者を中心にシーア派支配層への抗議デモが発生

2019年12月27日:キルクークの米軍駐留基地がロケット弾で攻撃され米民間業者1名死亡

2019年12月29日:イラクの武装組織ヒズボラの基地など5ヶ所が米軍空爆を受け兵士25名死亡

2019年12月31日:イラクの米大使館を群集が襲撃

2020年1月3日:トランプ大統領の命令による空爆でイラン革命防衛隊ソレイマニ司令官が死亡

2020年1月8日:イラクの米軍基地2ヶ所に向けイランがミサイル10発以上を発射。ザリフ外相は国連憲章に則った措置で報復一旦終了を示唆。トランプ大統領も人的被害はなく報復しない姿勢

2020年1月11日:イラン政府が1月8日のウクライナ機墜落に関し誤射を認める

 ここで一つ目のポイントは、なぜ米政権は革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害したのか。ソレイマニ氏は実質的に指導者ハメネイ師に次ぐナンバー2で、外交を担当していた。外交にはISやアルカイダとの戦いも含まれており、その点では米国と共闘していた形だが、イラクでは親イランのアブドルマハディ首相を立て、議会においてイラクからの米軍撤収を決議するとともに、民衆のデモに対し武力鎮圧を目指すなど米国に対立する政策を推進していた。イランでは米国による経済制裁による窮状が予想以上に深刻で、今まで公然と批判されることはなかったハメネイ師を含めたシーア派支配層への不満が若者中心に噴き出している。トランプ大統領はソレイマニ氏が米国民を攻撃する計画の最終段階だったとしており、計画を未然に防ぐためとして暗殺を命令と説明。トランプ大統領にとってハメネイ師の右腕ソレイマニ氏を殺害することは、①戦争を防ぐ②イラン・イラク・レバノンの民主化を推進③ハメネイ師の孤立化④米国民の愛国心を煽り大統領選を有利に運ぶ、という効果が期待できる。ただし、米国民攻撃計画の証拠は揃っておらず、殺害がトランプ大統領の独断で行われたとの報道もある。

第二のポイントは、なぜイランが米軍基地へミサイルを発射しその攻撃を初めて認めたのか。ソレイマニ氏は国民的英雄で、数百万人市民が死を悼み葬儀では事故による死者がでたもよう。すでにイラン支配層に対する国民の不満が溜まっていたので、イラン政府としては米国に対する報復が必要。愛国心を煽ることで不満の矛先を米国へと向けさせる目的があったと思われる。ただし本格的戦争となれば米国の軍事力は圧倒的で、ミサイル発射を事前に米側に通知したうえで、人的被害が発生しない箇所を狙ったと思われる。一方で、イラン国内向けには米兵士80人以上が死亡と報道され、報復措置が成功裏に終了したことをアピール。ある意味ミサイル攻撃は双方シナリオ通りだったと言えよう。ただしウクライナ機誤射に関するイラン政府の当初の隠蔽姿勢に対し、改めて多くの被害者を出したイラン国民による抗議デモが再び発生している。

以上より、現在は米・イラン双方が目先の目標を達成した状態で武力による報復合戦は一旦終了が予想されるが、イランにおいて米国が望む民主化への動きが見られる。   担当 清水  

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