中国覇権の現状
2020年は世界全体のGDP成長率が新型コロナウィルスの影響により▲3.5%に落ち込む中、GDP世界2位の中国はいち早く感染拡大抑制に成功し経済活動をほぼ正常化、+2.3%とプラス成長を維持した。一方でGDP世界1位の米国の2020年GDP成長率は▲3.4%に留まり、IMFによる2021年の成長率予想も中国5.5%に対し米国2.5%となり、これらをもとに試算すると2035年にはGDP世界1位の座が米国から中国に代わることになる。ここで思い浮かぶのは、新覇権国が旧覇権国に取って代わろうとするとき、2国間で生じる戦争への危険をはらむ緊張関係を指す「トゥキディデスの罠」だが、改めて貿易面、軍事面および人口動態から見てみる。
・貿易面…中国GDPの20%は輸出によって生み出されており、最大の相手国は輸出の20%を占める米国であり、その後に欧州や日本など西側先進各国が続く。一方米国の中国からの輸入は全体の1%で対中貿易が止まっても米国の痛手は小さく、トランプ前大統領が貿易戦争を仕掛けたのもこのため。また西側諸国が協調して対中貿易を抑制すると中国のGDPを約20%低下させることが可能となり、いわばアキレス腱。よって中国は内需拡大によるGDPの輸出依存率低下を急いでいる状況にある。
・軍事面…米中共に核保有国であるため、核の抑止効果から使用は避けざるを得ない。そのため実際の戦闘は陸海空での地域を限定した交戦がメインと想定され、中国は猛スピードで軍備増強を進めている。特に台湾との関係緊迫化を念頭に、海軍の艦船を350隻と米国を上回る規模まで増強、建造年数の新しさでも米国海軍を凌駕する。また中国は海上路の確保を重視しアリューシャン列島から日本、韓国、台湾、フィリピン、インドネシア、豪州を結ぶ防衛ライン上で揺さぶりをかけているが、西側諸国も米国だけでなく英、独、仏が艦隊を東アジアに派遣するなど、軍事面でのバランスが崩れる気配はない。
・人口動態…中国は長年続けた一人っ子政策の影響に加え、近年の教育コスト上昇から出生率(1年間の出生数/当該年の人口)は1%と、日本の0.7%に近づきつつある。また医療福祉制度の拡充に伴い高齢化も進み、今後日本同様に政府支出の約4割を社会福祉関連支出が占めるようになると、GDP成長率が日本と同じく0%に近づく恐れもある。その場合はGDP世界1位の達成時期が後退する可能性がでてくるなど、将来的に厳しい状況が続くと考えられる。
以上から、中国は米国を含む西側諸国との戦争を選択して「トゥキディデスの罠」へと突き進む可能性は低いと言える。
さて足元の中国経済だが、PMI(購買担当者指数)や鉱工業生産などの経済指標が伸び悩んでいることから、米国などのコロナ禍からの脱出2番手ランナーに景気回復のバトンタッチとなりそうだ。中長期的に西側諸国は、中国経済へ依存しつつも、覇権国交代に伴うグローバルスタンダードの変更や基軸通貨交代を警戒、対中で共同歩調をとりながら中国のアキレス腱となる貿易面での締め付けを強めていくと思われる。一方の中国は、香港・台湾・フィリピンなどからの海上輸送路を確保し、アフリカ諸国や中東、南米などの市場開拓を狙っているようだ。また、日本に対しては、西側諸国の同盟体制を崩すべく貿易を対価に秋波を送っているようにも見える。今後、両陣営の橋渡し役を期待される日本には難しいかじ取りが求められる。
0コメント