中国 恒大集団

先週は、中国の新築住宅販売の4%を占め、売上高5,070億元(約8兆円)と中国民営企業売上高ランキング(出所:中華全国工商業聯合会)第6位、従業員20万人を数える中国不動産大手の恒大集団を巡る経営不安が全世界の株式市場を揺さぶった。かねてから資金繰り懸念があったところに、中国当局が一部銀行融資の利払い不履行を伝えたことが発端となり、海外投資家が保有するドル建て社債のデフォルト警戒感が広がり、株価下落が香港市場から日米欧へと伝播した。また、同社が販売した理財商品(比較的安全性が高いと認識されている資産運用商品)の一部が期限までに償還されず、投資家が本社に押しかけるなど危機レベルは一気に高まったが、中国当局が社債利払いを指示したと伝えられると週末にかけ各市場は一旦落ち着きを取戻し各国株価は反発に転じた。ここで、恒大集団を巡る今後の展開を予想してみる。

恒大集団は、銀行融資、信託融資など負債合計が33兆円(中国GDPの2%)、 有利子負債は12兆円であり債務は巨額だが、資産として優良な不動産を多数保有しており現時点では債務超過ではないと見られる。また負債33兆円は中国の銀行全体の総融資残高の0.3%に過ぎず、銀行システムによる1年間の不良債権処理額30兆円とほぼ同額であり、現状はリーマンショックのようなシステミックリスクの懸念はないと思われる。また足元のドル建て社債の価格は100ドルの元本に対して25ドルまで下落しており、アジアハイイールド債券市場全体に占めるエクスポージャーは時価ベースで2%未満へと低下した。

一方で日本のバブル崩壊に似ているとの指摘も多い。中国の不動産関連不良債権の増加が、昨年末の中国政府による不動産会社への資本調達規制を発端としていることが、日本の1990年の金融機関向け行政指導である「総量規制」を彷彿とさせるからかもしれない。日本では、まず1990年に株価が暴落しその後地価が下落して不良債権が増加、大手銀行・証券が破綻し金融危機が発生した。当時の日本の大手銀行の不良債権比率のピークは2001年の8.7%だったが世界市場に金融危機が伝搬することはなかった。中国においても資本調達規制により不良債権が足元で増加している。ここで中国が金融危機へと向かうか否かだが、筆者は当局による金融機関の破綻処理にかかっていると思う。1990年代の日本の金融危機では大手銀行・証券の一部が破綻に追い込まれ、その影響は国内金融市場を混乱に陥れた。一方で2008年のリーマンショックでは米大手保険AIGを公的支援により破綻させず、リーマン1社に破綻を留めたことで危機のスパイラルを食い止めた。もちろん米国と日本とで金融制度の違いはあるが、金融機関の破綻件数がその後の危機の深さを左右しているようにも見える。

現在の中国では銀行の99.5%が国有であり、また中国4大銀行の貸し出しに占める不動産企業向けは約5%ということを考えると、現段階では銀行破綻を避けつつ不良債権処理が可能な状態と思われる。さらに来年には北京五輪を控えており、体面を重んじる中国政府は当面、混乱を伴う銀行破綻は回避すると予想される。ただし北京や上海のマンション価格は年収の50倍超とバブル期東京の18倍よりかなり高い状況にある。習主席は2023年に2期目の任期満了を迎え続投が確実視されるが、その習主席が3選に向け掲げる格差是正を目指すスローガン「共同富裕」を踏まえ、これをどのように着地させるのかは引続き難問だ。

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