ウクライナ危機と日露戦争の類似性

2022年2月24日、約10万人と推定されるロシア軍がロシア西部とベラルーシからウクライナ国境を破ってなだれ込み攻撃を開始した。プーチン大統領は、親ロシア派が占拠するウクライナ東部でウクライナ軍の攻撃から親ロシア派の住民を守る正当防衛を主張。但し本音は、2019年に誕生したウクライナのゼレンスキー政権がNATO加盟の方針を打ち出したことで、NATO軍がロシア国境にまで迫るリスクを排除したかったからと思われる。

そもそも現在のロシアとウクライナはいずれもキエフ大公国を文化的祖先にもつが、1991年にウクライナがソ連から独立。その後2014年のロシアによるクリミア併合時に、独仏仲介のもとでウクライナ東部の親ロシア派支配地域に自治権を認め、代わりにロシアは軍事介入を停止するとしたミンスク合意がまとめられた。今回の侵攻では、プーチン氏はミンスク合意はもはや存在しないと否定した。

プーチン氏の当初の想定では、ロシア軍が首都キーフを数日で制圧、即座にゼレンスキー大統領を失脚させ傀儡政権を樹立するというもので、クリミア併合時と同様1ヶ月足らずで目的達成となるはずだったようだ。ところがウクライナ軍は西側諸国が提供する新型兵器とロシア軍情報をもとに徹底抗戦に出た。メディアの報道によれば、主要街道を1列で進軍するロシア軍戦車を携帯型ミサイルで砲撃し行く手を阻止、さらには黒海でロシアの旗艦モスクワをミサイルで撃沈してしまう。因みに、ロシアの旗艦級軍艦が撃沈されるのは日露戦争以来の出来事となる。

・日露戦争との類似性(*)

こう書いてくると100年前の日露戦争との類似性が浮かび上がってくる。相手を小国として完全に見くびっていたこと。軍事力では相手を圧倒しているにもかかわらず、戦略が稚拙なうえ、周辺国から相手国への援助が大きな誤算へ繋がったこと等。加えてロシア軍戦車の1列進軍が渋滞する様子を見て日本海海戦における日本海軍のT字戦法を、西側諸国によるウクライナ支援を見てバルチック艦隊が長い航海中に反ロシア諸国からの妨害で到着前に既に満身創痍になっていたことなど、日露戦争との類似性を感じたのは筆者だけではあるまい。領土拡大への野心、条約を反故にして戦争を始めるところなどもロシアのお家芸とも言える。

さて、日露戦争においては結局ロシアが降伏したものの、日本にも戦争継続の余力が無かったため、米国仲介のもと日本は樺太南半分の領有権と朝鮮半島における優越権を得たが、賠償金はなしとなった。マスコミはこの講和条約は屈辱的と民衆を煽り、大東亜戦争への引き金になったとの見方もある。一方のロシアは、戦時中に平和を求めた民衆に対し軍隊が発砲した1905年の「血の日曜日」を経て、ロシア第一次革命へと向かってゆく。

 今回のウクライナ侵攻は長期化の様相を呈しているが、一部報道によれば、多額の出費と戦死者数の増加によりロシア国内に厭戦ムードが広がりつつあるという、まさに100年前と同じ展開だ。今回は反戦デモの首謀者や反戦を主張する知識層は投獄されたり国外脱出したりしているが、一般国民による反プーチン感情も高まっていると思われる。この先2024年に予定されるロシア大統領選挙においてプーチン氏が失脚、政権交代となる可能性もあろう。そうなれが終わりまで日露戦争に似ていたということになる。     

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