ポピュリズムの台頭
ポピュリズムとは、大衆からの人気を得ることを第一とする政治思想(大衆迎合主義)や活動を指す。本来は大衆の利益の側に立つ思想だが、大衆を扇動するような急進的・非現実的な政策を訴えることが多い。特定の人種や宗教など少数者への差別をあおる極右排外主義と結びつきやすく、対立する勢力に攻撃的になることもある。現状も世界的に広がる物価高やウクライナ危機を発端として、既存の政治に対する不満や現状への閉塞感が高まっており、ポピュリズムが台頭しやすい状況にある。そして選挙を控えた候補者は、大衆の支持を得るため減税や給付金などいわゆるバラマキ政策を掲げることが多い。ポピュリズム的政策は、最終的に財政支出拡大によるインフレ加速や財政悪化を招く危険もあるが、ここで各国の状況を見てみよう。
英国…コロナ禍の真っ只中にパーティー出席など不祥事が相次ぎジョンソン首相は辞意を表明。現在次期首相選はスナク元財務相とトラス外相の一騎打ちとなっている。スナク氏はインフレが沈静化するまでは減税しないなど従来の緊縮財政路線を踏襲するが、トラス氏はスナク氏が導入した国民保険料の引上げ廃止、気候変動対策課徴金の一時停止と国債増発を主張、支持率はスナク氏を上回る。
イタリア…現政権の信任投票で「五つ星運動」を含む連立与党3政党が棄権したことを受け、ドラギ首相は辞表を提出。総選挙に向けた世論調査では極右「イタリアの同胞」が最有力で、党首のメロー二氏は極右らしく国粋主義を標榜するが、大西洋主義としてウクライナ支持を表明、右派に多いEU懐疑派ではないようだ。
フランス…4月の大統領選では現職マクロン大統領が極右ルペン候補を退け再選を果たしたが、6月議会選挙では与党連合「アンサンブル」が過半数割れ、左派連合と極右「国民運動」が票を伸ばした。少数与党による政権運営のため、減税など財政負担を伴うポピュリズム色の強い政策が続きそうだ。
米国…11月に中間選挙を控えるが現職バイデン大統領の支持率は低く、移民排除やプーチンを高く評価するなど極右的言動が目立つトランプ氏率いる共和党の勝利が見込まれる。民主党内でもサンダース氏など大衆迎合策を掲げる左派が勢力を盛り返しつつある。
ブラジル…10月に予定される大統領選を控えボルソナロ大統領は支持率を落としつつあり、劣勢挽回のため低所得者層向けの給付金予算を増額した。一方、支持率でリードするルラ氏も低所得者層向けの社会保障の拡充を発表するなど、選挙に向けバラマキ合戦の様相を呈しつつある。
日本…参院選を終え3年間は国政選挙のない岸田政権には、他国にない安定感がある。足元のインフレ率も低く、難民対策など人種・宗教上の問題も話題になりにくいので、やるべき政策を実行できる状況にある。具体的には、賃金上昇を含む労働生産性の向上や少子高齢化対策、財政再建などがあげられるが、現状はガソリン補助金やコロナ対策助成金など相変わらずバラマキ政策が目立つ。
さて、世界的に見て日本以外はポピュリズム、右傾化が進みつつあるようで、財政悪化とインフレの沈静化も見通せない。新型コロナ対策として財政支出を増やした各国が拠り所とした現代貨幣理論(MMT:一定の条件下なら国の借金は許容される)は、楽観的過ぎるとの批判もあったものの、結果的に各国政府の政策に上手く合致していた。しかし、そのMMT理論ですら財政支出拡大は景気浮揚とともにインフレをもたらすと予想しており、インフレが現実化した時に増税することで財政と景気、物価のバランスが取れるとしている。一方で増税には国民の反発が想定され、結果的に増税が遅れインフレ高進と財政赤字拡大が止まらなくなるリスクがあるとしている。まさに足元のポピュリズムの台頭は、その予想を現実化しつつある。
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