低PBR株の逆襲
最近、日本国内ではバリュー株のパフォーマンスが良く、低PBRバブルとも呼ばれている。新聞によれば、昨夏からの東証有識者会議において、プレミアム市場に低PBR株が多いことが問題視されたことが背景にあると解説されている。しかしながら、仮に東証の指導による低PBR企業の経営努力への期待があったのであれば、東証が昨年実施した市場区分の3市場への変更の際にも同様の動きがあったはず。にもかかわらず足元で低PBR株が買われるのには、他に理由があると考えられる。
PBRとは株価÷1株当たり純資産であり、会社を解散して保有資産をすべてB/S通りの価格で売却し現金化できるのであれば、本来は1を大きくは下回らない。日本のバリュー株に多く見られるPBRが0.5倍以下という状態は、市場が当該企業の価値を純資産(=資産‐負債)の約半分に評価していることを示しており、保有資産の将来価値が現時点より低い或いは負債の将来価値が高いことを意味する。これを現状のデフレ下にある日本経済に当てはめると、現金も含めた資産の将来価値はデフレ(低利回り)により伸び悩む一方、堅実経営を目指して減らしてきた負債の将来価値の減価効果は少なくなる。つまりPBRの低い理由は一目瞭然「デフレ」となる。さらに銀行業の場合、保有資産の日銀当座預金は一部分に低金利政策によるマイナス金利が適用となる一方、負債の銀行預金はプラス金利を適用せざるを得ず、低PBRとなるのは必然とも言える。
図1は2年前(2021/3)を1とした日経平均、東証銀行株指数、東証バリュー株指数、および市場金利の動向を反映する20年金利(YCC対象外)の動き。昨年春以降の①物価上昇に伴うデフレ脱却の動きにより日経平均に対し銀行株とバリュー株がアウトパフォーム、12月の②YCC見直しに伴う金利上昇で銀行株が急上昇したことがわかる。但し、銀行株指数のPBRは現在0.6倍と2年前の0.4倍からは上昇したものの未だ1倍からは遠い。
今後、植田日銀新総裁のもとデフレ脱却とマイナス金利脱出が視野に入れば、銀行株&バリュー株の一段の見直し買いも期待できよう。一方で、最近は低PBR株にはB/Sに反映されない資産として、人的資産も問題視されることが増えている。例えば余剰人員を抱える企業の場合、通常は退職金という会社にとっての負債に対し、現有人材が将来的に生み出す価値の方が大きくPBRを低下させないが、労働生産性が低い場合は低下要因となる。このように低PBRの改善にはデフレ脱却、マイナス金利脱出とともに労働生産性の向上等、企業自身の努力も必要ということになる。
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