金融の役割

米SVB破綻や欧州金融大手クレディスイスの経営危機は、金融当局の迅速かつ手厚い対応を受け一旦沈静化。過去にリーマンショックなどの金融危機を乗り越えた欧米当局が、健全な銀行機能維持の重要性を強く認識していることを示した。金融は経済の血液と呼ばれ、リーマンショックでは1金融機関の破綻が米経済だけでなく世界経済全体をも急速に悪化させたことは記憶に新しい。金融機関の役割は預金者や投資家から集めたお金を使い、貸出や投資を通じて経済成長を促すこと。お金が血液なら金融機関は心臓と言え、心臓が弱まれば生命の危機となる。

ところで日本の過去20年以上に及ぶゼロ金利政策は、長期金利が一定水準を維持できれば調達金利低下により金融機関には収益的にプラスに働くはずだったが、異次元緩和策による10年金利のゼロ%誘導で収益機会が失われた。この結果、金融機関は経営不振により次々と統合が進み減少、またビジネス環境の悪化に伴う構造不況業種化により人的資源の劣化も進んだ。一方で主要業務である貸出や運用などのリスクテイク能力が低下、結果として成長マネーが行き渡らず経済は長期に渡り停滞に陥ったように見える。アベノミクススタート後は、政府が財政支出を拡大し金融機関の代わりに成長マネーの担い手となったが、経済合理性の確保は難しい。財政支出は国民の同意を得やすい高齢者を含む弱者救済に偏りがちで、貧困層と職業別収入トップの医療関連へとお金が流れることになる。この動きは権威主義国家によくみられる構図で、国民全体が低所得層として固定化する一方、一部の既得権益層が潤うことになる。貧困対策よりも先富論を推し進めた中国を除けば、権威主義国で経済的に成功した例はない。図1は1990年代の金融危機以降、現在に至る30年間の日本のGDPと銀行貸出及び政府債務残高の推移。銀行貸出はリーマンショックにかけて減少後、アベノミクスを経て漸く戻りつつある一方、政府債務は膨張を続ける。残念ながらこの間GDPはほぼ横ばい状態にあり、金融緩和策、ある意味で金融機関への負担転嫁策の効果は見えない。

GDP世界一の米国をみると金融機関の収益力は維持されている。例えば、金融当局は新型コロナショック後に一時的にゼロ金利政策を採用したが、経済への悪影響に配慮しマイナス金利導入は回避。足元ではインフレ鎮静化のために急ピッチで利上げを実施、FFレートは5%近辺に達したが、米銀における一般預金者向け適用金利は0.01~0.05%と低位にあり、そのまま中央銀行FRBに預けても5%近い金利鞘が稼げる状況にある。邦銀が日銀当座預金のマイナス金利適用によりペナルティを課される状況とは雲泥の差がある。加えて足元ではSVB破綻により米大手銀行には溢れるほどの預金が集まり、事実上の無リスク利益はさらに増加中だ。

長年に渡る日本のリフレ政策の評価は未だ確定しておらず、また失われた30年の責任が全て金融政策に拠るものでもないが、心臓(金融機関)の劣化がその一因となった可能性はある。日銀の新体制移行に伴い、金融政策の変更となれば、血流改善と共に日本は低成長から抜け出せるかもしれない。

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