地球温暖化とワイン

世界でワイン生産に適している地域は、北緯30~50度、南緯20~40度の年間平均気温が10~20度のエリアで、北半球では、フランスをはじめとして、イタリア、スペイン、ドイツ、アメリカ、そして日本の一部の地域。南半球では、チリ、アルゼンチン、ニュージーランドなどがある。原料であるブドウの栽培環境によってワインの味には特徴があり、アルコール度数やタンニン、酸などにもその違いが現れる。世間ではこの一連のワイン生産地を「ワインベルト」と呼ぶが、足元で進む地球温暖化によって、この「ワインベルト」が変わる可能性がある。 例えば、気温上昇に伴いブドウの熟成度が高まり、糖度も高まる。この糖分は酵母によってアルコールと二酸化炭素に分解されるが、結果的にアルコール度数が高まる。このため気温の高い年のワインは飲んだ時のインパクトが強いとして、当たり年のワインとされることが多い。またシャンパーニュ地方は気温が低くブドウ栽培の難易度が高いため、不作の年に備えて当たり年のワインを貯蔵し、複数年のワインを混合することで、年毎の出来不出来のばらつきを小さくする。ところが最近の平均気温上昇により、当たり年にしか作られなかった生産年を冠したビンテージもの(例えばドンペリニヨン)が頻繁に出荷されるようになった。但し、気温の上昇はワイン生産にとって良いことばかりではなく、悪い結果をもたらすこともある。例えば、高級ワインとして有名なロマネコンティは、1.8ヘクタール(東京ドームの約1/3)しかない専用畑で収穫されたブドウだけで作られる。つまり専用畑は気候や土壌など世界中でその場所にしかない条件を備えており、逆に気温変化など条件が少し乱れただけでブドウの品質が損なわれることになる。

さて日本は緯度的にはスペイン、フランスとほぼ同じだが、海流の影響で欧州より平均気温は低く、さらに雨が多く多湿なためブドウは水分を多く含みアルコール度数が高まらない。そのため日本のワインはアルコール度数が低く力強さと熟成感が不足気味で水っぽいと言われ、従来からワイン作りには適さないとされていた。近年は温暖化の影響で気温のハードルは下がっているが、多湿多雨に関してはいかんともし難いと思われたが、最近この問題点も改善されつつある。

醸造家のたゆまぬ研究の成果に加え温暖化の影響もあり、最近では世界各国のワインコンクールで高評価を得る日本産ワインが増えてきた。特に山梨県、長野県、北海道といった地方でのワイン生産が盛んだ。因みに、北海道のある醸造家が作るワインは、水分が多いことを逆手に取り、出汁のような味わいを目指したことでそれが高評価に繋がり人気沸騰、現在市場ではほぼ入手困難となっている。

フランスワインは、今世紀に入り中国人の爆買いから価格が高騰したが、今後は温暖化の影響に加え景気低迷による中国人の購買力低下から、価格の下落が懸念される。一方、かつて当欄で取り上げたウィスキーと同様、日本人の探求心の強さと味覚の鋭さがワイン生産を支え、さらに温暖化が重なることで、今後日本産ワインの評価と価格は上昇する可能性がある。ボルドーのプリムール(熟成を見込む新酒販売会)のように、商品投資としてワインを樽ごと購入、仮に値上がりしなければ、自ら味わうことで気分的な損失を矮小化するという投資戦略はいかがだろうか。  

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