日本はデフレ脱却できたのか

植田日銀総裁は、2月の衆院予算委員会で国内物価情勢がデフレかインフレかと問われ「現在はインフレの状態にあるという認識に変わりはない」と答えた。これに対し石破首相は「日本経済はデフレの状況にはないが、脱却できていない」と発言、デフレに対する日銀と政府の見解は異なる。これには物価目標が異なることが背景にあると思われる。日銀は消費者物価が2%で持続的・安定的に推移することを目標とするのに対し、政府は2006年に国会資料で定義したデフレ脱却4条件を基準としている。この4条件とは①消費者物価が2%を超えることに加え、②GDPデフレータの前年比、③単位労働コストの前年比、④需給ギャップ、の3つがプラスになることとされた。

図1は日本の総合CPI、GDPデフレータ、単位労働コスト、需給ギャップの前年比を過去20年間にわたり示したもの。日銀が注目する①総合CPIは33か月連続で2%を上回り、足元12月は3.6%まで上昇。但し、実際の金融調節では3か月毎に公表する展望レポートのコアCPI見通しが重視され、1月時点の2025年度見通しは前年比2.4%。②GDPデフレータは消費だけでなく設備投資なども対象とし、名目GDPを実質GDPで割って算出。2022年9月以降は前年比プラスを維持。③単位労働コストは賃金上昇を反映し、2023年3月以降は前年比プラスを維持。④需給ギャップは経済全体の需要と潜在的な供給力の差、(実質GDP-潜在GDP)÷潜在GDPで算出。図は日銀の数値だが、2020年6月以降マイナスが続き足元は▲0.5%。政府は日銀とは潜在GDPの計算方法は異なるものの足元の数値はほぼ同じ、2025年度は0.4%と7年ぶりプラスを見込む。

つまり来年には政府もデフレ脱却宣言に踏み切る可能性があるわけだが、これには隠れたハードルがある。政府は2022年当時、4-6月期の需給ギャップを▲2.7%(日銀は▲0.7%)と発表、GDPに引き直せば▲14.8兆円。これを踏まえて政府内では最低でも15兆円規模の経済対策を必要とする声が上がり、補正予算は結局2倍超の32兆円と決定した経緯があり、現在も多額の補正予算の裏付けとなっている。つまり、補正予算を組みたい限りは需給ギャップのプラス転換は都合が悪く、加えて金利上昇は国債利払い費増につながるため、結果として政府のデフレ脱却宣言は遅れ気味となる。更に足元では少数与党が支える政府になっており、果たして日本のデフレ脱却はいつになるのだろうか。

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