米国の日本化?
トランプ氏が米国の第47代大統領に返り咲き、連日のように繰り出される極端な政策によって世界が振り回されている。主なものを分野毎に整理(表1)してみると、意外にも日本政府が過去に採用した政策に類似したものが多い。
分野 トランプ2.0政策
経済 関税引上げ、大型減税、政府系職員のスリム化(DOGE)、薬価引下げ
移民 不法移民の国外追放、留学生の入国制限、有名大学への補助金減額
外交 ウクライナ紛争仲介、ガザ問題への介入、スエズ運河・カナダ・グリーンランドの所有権主張
エネルギー 石油・天然ガス開発、再生可能エネルギー推進政策の転換
関税引上げ…今でこそ日本の平均関税率は3.9%まで低下したが、以前は高関税国と評価され、現在でも農畜産物の関税は13.4%と高止まる。高関税品目は昨今話題のコメだけではなく、乳製品、肉類、果物など非関税障壁も含め多岐にわたる。米国は、1980年代の日米貿易戦争で日本を「閉鎖的」と非難、半ば強制的に牛肉・オレンジなどの市場を開放させた。現状は、逆に米国が関税を引上げ日本に近付くのは皮肉だが、歴史が教えるのは、当時の米国が貿易戦争で成長を期待した産業(鉄鋼、自動車、半導体、TVなど)がいずれも復活出来なかったという厳然たる事実だ。加えてトランプ政策では、関税引上げによる輸入原材料や半製品の価格上昇や移民排除によるブル―カラー層の賃金上昇から、製造業が海外脱出に動く可能性がある。まさに1990年代の日本において、円高進行から国内企業が相次ぎ海外脱出した現象に似ている。
移民政策…近年、各国は不法移民の摘発・国外退去を積極化している。一方で日本は少子高齢化から移民は増加傾向にあるが、移民比率は約2.5%と依然少ない。つまり移民比率約15%の米国は、不法移民策の強化で日本にわずかだが近付く。また留学生制限や最先端研究補助金削減による米有名大学からの頭脳流出も、1990年代にバブル崩壊で資金難から基礎研究を停止した日本で生じた現象と類似する。その後、日本の最先端研究開発能力が低下したことは記憶に新しい。
薬価引下げ…米国の医薬品市場は7,000億ドルと世界全体の4割を占め、世界の製薬会社は米国で稼いだ利益を新たな薬品開発に充てる。今では一つの新薬開発に平均3,100億円もかかるため、連邦政府の公的マネーと投資家の民間マネーが揃って集まる米国に世界の新薬開発は委ねられる。ところが、トランプ氏は米国の新薬に世界がタダ乗りしていると批判、薬価の引下げに動く。一方で、日本では社会の高齢化が進み医療費が増加基調にある中、政府は診療報酬の引下げが難しいため、社会保障制度の破綻を避けるべく薬価の引下げに動く。結果として、日本における新薬開発や高価な新薬投入が遅れるといった弊害が発生しており、米国にも同様のリスクがある。
更に、減税と財政支出拡大と低金利のポリシーミックス、既存エネルギー産業への補助金や規制緩和による支援、それに伴う新エネルギー産業の発展疎外など、トランプ政策の多くは日本の政策に似てきており、表1の中で似ていないのはDOGEと外交政策くらいである。つまり米国において、トランプ的政策運営が続けば、長期にわたる経済成長率は日本のようにゼロとはならないものの、今後は減速する可能性がある。
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