米中貿易問題
トランプ大統領が5/10に対中貿易関税を一部引上げたことから、世界中の株式市場が下落した。米国の関税策は1930年に米国が採用したスムート・ホーリー法との類似点を比較する意見が多いが、当時の米国は農産物を中心に相手国構わず関税を平均40%に引上げるなど、専ら国内産業保護を目的とするものだった。一方で、今回の対中関税の目的は貿易赤字削減の他に、このままでは2030年にも中国にGDP世界1位の座を奪われそうなことに対する警戒感がある。その点では1980年代に米国のGDP1位の座を奪う勢いだった日本に対する通商政策との共通点の方が多いと思われる。当時日本は自動車・鉄・半導体などでシェアを伸ばし、半導体は世界シェアの5割以上を占めていた。通商協議で日本が半導体等の輸入目標設定に合意したため、日本企業は韓国・中国に技術移転を行い現地製造品を輸入する奇策を執りシェアと技術優位性を落とし、さらにプラザ合意で価格優位性を封じられた。結果その後の30年間経済は停滞し、高度成長期の10%成長から1980年代の4%を経て足元約0%まで低下した。翻って現在の通信機器市場では、中国政府と親密な非上場企業ファーウェイ1社が世界シェアの3割を握っており、次世代技術5G関連では5割を超えると予想されている。中国も10%高度成長期を経て現在6%まで成長率は低下中で、構図は1980年以降の日米貿易戦争に似通っているが、中国は米国の核の傘に守られているわけではないので日本ほど従順ではなく、今回も米国勝利とは限らない。
図1は米中の2018年以降のGDP成長率推移および消費者物価推移だが、関税引上げ後も米経済は堅調なうえ、関税による物価上昇圧力も高まっていないようだ。自由貿易に懐疑的な民主党主流派も対中関税には賛成せざるを得ず、来年の大統領戦を有利に進める為にもトランプ大統領は貿易問題で譲歩することは考えづらい。また、以前この欄でも紹介したゲーム理論を参考にすれば、米国はGDP世界1位の座が安泰となるまで対中攻撃の手を緩めることは無いと予想され、長期戦の様相を呈する。尤も米株価が不安定な動きを続ける中、中国の譲歩を引出せば対中関税第4弾を留保する可能性はある。
因みに日米貿易戦争の結果、景気が長期低迷した日本を尻目に技術移転等の恩恵もあり韓国・中国を中心としたアジア圏の経済成長が著しかった。今回も昨年来の米国による対中関税は他国で代替が効く物を中心に選択されたため、代替品生産国では輸出が増加しているはず。そこで昨年以降輸出のモメンタム(対前期比上昇率)が高いアジアの国を調べると、ベトナム・タイ・シンガポールとなる。つまりそれらの国が2020年以降第2の韓国・中国として経済発展する可能性を秘めているかもしれない。
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