ブラジル経済
3月の小売売上高が前年比▲4.5%と2月の+4%から大きく下落した。米中貿易摩擦激化の影響で商品価格全般が低迷する中で、資源国通貨レアルおよびボベスパ指数は年初来下落基調に転じている。鈍化傾向を示す経済指標に加え、遅延気味の年金改革問題、相変わらず蔓延する政界汚職、ペトロブラスへの口先介入に見られるボウソナロ大統領の暴走などの政治的要因も通貨・株の頭を重くしており、当面は底値を探る展開が予想される。
ブラジルレアル
資源国通貨として商品価格指数や原油価格等に連動することが多く、足元では商品価格指数が中国景気の影響を大きく受けるため、結果として中国株との連動性が高い。
図2.ブラジルレアルとCRBインデックスおよび中国株の推移
4月以降は米中貿易摩擦の激化とともに、中国株とCRBが低下基調。ただしレアルは1月から既に低下しており、これは①遅々として進まない年金改革法案②ボウソナロ大統領の暴走③相変わらず蔓延する政界汚職④足元で鈍化傾向を示す景気、などが影響していると思われる。
①年金改革法案
ルラおよびルセフ大統領時代に人気取り政策として放漫財政を進めた結果財政悪化と景気後退を招いた。その反省からテメル前大統領は財政再建策を取り、現ボウソナロ政権でも政策を引継ぎ年金改革はその目玉。現在65歳以上人口比率は8%と低いにもかかわらず、年金支出のGDP比は12%と高く年金の国庫負担は4割。そこで年金改革法案では女性55歳、男性60歳からの年金支給開始年齢を夫々62歳、65歳とすることで、今後10年間で名目GDPの15%程度に相当する1兆レアルの財政改善効果を狙っている。年金改革は市民の受けが悪いためなかなか進まなかったが、下院司法委員会および特別委員会を通過し、下院本会議へと採決が進んでいる。ただし本会議は与党も多数政党の寄り合い所帯のため、中道政党が歳出削減規模の縮小を意図した法案の修正を予定するなど改革を退歩させる動きが見られ、成立までは紆余曲折がありそうとして株とレアルが低下。
②ボウソナロ大統領の暴走
もともとブラジルのトランプと呼ばれるほど言動が過激だったが、銃規制緩和命令を出したり、公営石油会社ペトロブラスの燃料価格引上げに対し大統領が直接電話にて取止めを求めるなど、市場が懸念するような過激な行動が目立ち始めたことが問題視されている。拷問による取調べに賛成するなど、暴言や差別発言も相変わらずで、支持率は就任直後の50%から30%台前半へと急落していることがレアル安を加速している。
③相変わらず蔓延する政界汚職
ルラ前大統領が有罪判決を受け、その子飼いとされるルセフ前大統領も弾劾裁判で失職。そのあとを引継ぎ、汚職一掃を公言したテメル前大統領も結局汚職疑惑で逮捕された。加えて汚職撲滅を訴え当選したボウソナロ大統領の長男フラビオ上院議員と元運転手の資金洗浄疑惑が浮上し、マイア下院議長は汚職関与を認める供述をするなど、ブラジル政界が相変わらず汚職まみれとの見方が広がっているため通貨レアルの頭は重い。
④足元で鈍化傾向を示す景気
ブラジル政府は2019年通年のGDP成長率見通しを従来の2.5%から1.25%へと下方修正した。世界経済に鈍化傾向が出る中、輸出や投資が伸び悩んでいる。中国景気に加え隣国アルゼンチンの通貨危機もブラジル経済に地政学上の悪影響を与えており、GDP成長率も2018年初の年率2%から直近4半期では1.1%へと減速している。
図3. ブラジル鉱工業生産、小売売上高および経済活動指数の推移
年金改革法案成立は2019年後半と思われるが、無事成立すれば株・通貨の支援材料となろう。また、米中貿易摩擦が緩和され中国景気が回復基調となれば資源国ブラジルの景気にもポジティブだが、現状2020年の米大統領選までトランプ氏が対中国で譲歩することは考えづらい。
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