なぜ日本は財政破綻しないのか
日本政府の債務は1,200兆円となりGDPの240%と先進国では断トツで、2位は財政不安から最近長期金利が上昇気味のイタリアの130%。債務と比較するのは収入(GDP)ではなく資産であり、国民への課税余地と連結対象としての日銀を加味した資産ではまだ政府は債務超過ではないとの指摘もあるが、ここでなぜ日本の財政は破綻せず、長期金利もイタリアのように上昇しないのかを考える。
まず日銀券の発行残は110兆円しかないのに、誰が政府に巨額のお金を貸しているのかという疑問があるが、それは基本的に銀行預金である。財政支出と預金の関係を説明すると、①政府が国債を発行して公共事業等に支出する。②国債は銀行等の金融機関が預金で購入する。③一方で公共事業等の請負業者に支払われた代金は従業員給料や会社の内部留保となり再び銀行預金に戻ってくる。そしてその預金で銀行は再び国債を購入する、というループとなっており、これは預金の乗数効果と呼ばれる。乗数係数は、プロセス途中で誰かがタンス預金等としない限り預金保険率の逆数で、保険率1%であれば100倍。現在の日銀券発行残が110兆円、ただしタンス預金が50兆円なので残り60兆円としても6000兆円まで上記プロセスで政府は返済を考えなければ借金を増やすことが可能となる計算で、今後財政支出をすればするほど預金は増える。これは銀行貸出による一般事業も同様だが、通常は事業利益が借入金利を上回ることから周辺ビジネスが盛上り借入がさらに増えて預金を吸収する。図1は預金と貸出の推移だが、事実2000年以前は貸出残高が預金残高を上回っていたため銀行は資金調達の必要があった。
ところが公共事業等の収益性が低くビジネスとして追加の資金ニーズは発生せず、戻ってくる預金は滞留し貸出残を預金残が上回る。銀行は仕方なく安全な預金運用先として国債を購入するが、国債金利がマイナスとなり日銀の当座預金に積上げる。一方日銀はその当座預金を使い異次元緩和の一環として大量の国債買入れを行い、政府の国債大量発行に応える。ただし政府は国債発行によって得たお金で公共事業等を行うので、結局は日銀当座預金が再び増える。
このループは先ほどの上限6000兆円まで継続可能だが、追加の紙幣発行や預金保険率を下げればほぼ無限となる。これは米国で最近話題のMMT(現代金融理論)でも解説されており、自民党西田議員も「日本はすでにMMTを行っている」と国会で発言している。つまり米国がコルテス議員やサンダース議員が推奨するMMT政策を執った場合、財政支出対象の収益性が低ければ日本同様に金利低下と国債発行残の増加が同時に起こる可能性が高い。
さて今後の展開だが、財政支出対象の収益性を上げれば一般企業参入により預金は国債購入から貸出へと移行し金利が上昇、政府は税収増と金利支払い増のバランスを取りながら債務を減額できる。現状のままだとさらなる借金は可能だが返済ができないので、国債発行残が増加し政府および国民と企業の資産合計約4,000兆円を越えると日本国が債務超過となり金利上昇により破綻しかねない。日本はすでにMMT入口ではなく出口に向かうタイミングに立っている可能性がある。
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