ブラジル経済
【ブラジルの経済状況】
2016年以降のブラジル経済は、チャイナショック後の米中経済回復とそれに伴う資源関連需要の高まり、およびテメル前政権による財政改革等を受け、100年に一度と言われたリセッションからの回復途上にありました。加えて、大統領選に勝利した極右候補ボウソナロ氏が予想外に経済界寄りの政策を執ったことで安心感から一時的にボベスパ指数は最高値を更新。しかしながら、テメル前大統領が逮捕されるなど相変わらずの汚職事件により政治が混迷していることもあり、議会採決を必要とする年金改革法案等の財政再建策も当初想定より進行スピードは遅めとなっているうえ、米中貿易摩擦激化を受け資源価格が下落基調となりブラジルの1-3月期GDPが9四半期ぶり前期比マイナス成長となりました。
【通貨レアルについて】
2012年の日銀による量的緩和により、レアル/円は一時的に50円を回復しましたが、2014年以降米FRBによる資産縮小の影響でブラジルを含む新興国は株安、通貨安となり新興国からの資金流出が加速しました。加えて、2016年のルセフ元大統領罷免など汚職事件による政治的混迷を深める中で、主要格付機関からのブラジルのソブリン格付の引下げやリオ五輪後のリセッション長期化を受けレアル安が進行。ルセフ氏を引継いだテメル前大統領の政策運営は財政再建等で手堅く政権の信頼回復によりレアルは買戻されたものの、2018年には極右候補ボウソナロ氏の大統領就任への警戒感からレアルは再び下落。その後ボウソナロ政権が財政改革路線を引き継ぎましたが、議会の抵抗もあり年金改革法案採決は遅れ気味で、米中貿易摩擦の激化による資源価格の下落も手伝い、レアルは史上最安値近辺まで下落しました。年金改革法案により10年で1兆レアルを越える財政改善効果が見込まれます。また、インフレ率は4%台で安定しつつある一方で、GDPがマイナス成長となったことを受け、市場では政策金利引下げを織込む形で金利が低下しています。資源通貨であるとともに高金利通貨でもあるレアルは、資源価格安と金利安を警戒し下落した結果、対ドルでは4レアル台とIMFからの金融支援を受けていた2002年や2015年の100年に一度と言われたリセッション時と同レベルまで一時的に下落しました。
【今後の見通し】
税制改革法案や省庁削減に関する暫定令が下院で可決されるなど、財政再建策が足元で徐々に進行しつつあることからボベスパ指数は最高値近辺で推移しており、ブラジル経済の先行きに対して株式市場参加者は通貨市場ほど悲観的ではないようです。政策金利は過去最低の6.5%で低金利自体は通貨安要因ではあるもののインフレ率より高く実質金利はプラス。財政改革が順当に進めば安心感からブラジルの資産が買われ通貨レアルの上昇につながる可能性があります。加えて米FRBが金融引締めから中立、あるいは緩和へと舵を切る中で、流動性再供給により新興国市場への資金流入も期待され、今後の通貨レアルは最安値圏からのリバウンドが予想されます。
トランプ米大統領による中国だけでなくメキシコなどの周辺国、同盟国に対する保護主義的な政策やイランなどの地政学リスクの高まりによるリスク回避の流れが強まる場合、新興国市場全般への影響が懸念され再びレアル安となる可能性もありますが、過去最安値(*)を更新する可能性は低そうです。
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