MMT理論

財政赤字の積極的拡大を推奨する理論MMTに関する論争が注目されている。これは共和党トランプ政権がすでに減税などで財政赤字を拡大しているのに対し、対抗する民主党候補が社会保障やインフラ拡充などさらなる財政赤字拡大の財源確保を正当化できるため支持していることにも起因するが、リフレ派として有名なクルーグマン氏を含め主流派の経済学者は総じて批判的である。

<MMTとは> 現代と言いながら源流は1930年代から始まるMMT理論を簡単に2つにまとめると、

①金融政策が民間の経済活動に対して適切な水準に金利をコントロールしていれば、財政政策で完全雇用とインフレ目標を達成できる…つまり雇用と物価を決定するのは財政政策(含む税金)であって中銀による金融政策は補完的なもの、という考え方で、日欧中銀が異次元緩和を行っても物価を上げられない状態を説明している。結局日欧が物価を上げるために、MMTではさらなる財政政策が必要となる。

②国の借り入れが自国通貨で行われる場合、インフレ率が抑制されていれば財政赤字は問題ではない…GDPの240%まで国債を増発しつつ財政赤字を拡大しても、国債がほぼ自国内で消化されインフレとならない日本がその例とされている。誰か(政府)の借入は誰か(国民)の資産なのでB/Sを纏めれば問題ないとするが、P/L上は翌年以降に資産が劣化するとB/S上の債務だけが膨らんで行く。

<日本では> MMTを上手に実践している国として日本を挙げている。

麻生財務相も黒田日銀総裁もMMTに懐疑的だが、金利をマイナスにしてもマネーサプライを増やしても物価が上昇しない、巨額の政府債務でも財政支出拡大路線を続けている、国債を大量発行しても金利は低下する、などMMTの主張を凡そ裏付ける状況となっている。さらに日本リフレ派の拠所であるクルーグマン氏も最近では「金利がゼロ%以下の場合は財政刺激策が必要で異次元緩和は失敗」として、条件付きながらMMT的な発言をしており、国内リフレ派は梯子を外された形となっている。

<歴史的には> MMT理論に関係なく過去に財政赤字を膨らませた例と出口策を見ると、

1.英でナポレオン戦争が行われたときに巨額の軍事費により債務がGDP比230%→増税と産業革命

2.日で昭和恐慌時の日銀引受けで債務がGDP比200%→緊縮財政失敗(2.26事件)、第2次大戦

3.米で大恐慌後のケインズ政策および第2次大戦により債務がGDP比120%→朝鮮・ベトナム戦争

4.日・英で第2次大戦により債務がGDP比200%超→増税、インフレ、通貨切り下げ

5.日でバブル崩壊後の景気減速とデフレ対策により債務がGDP比240%→?

<出口戦略は> MMTでは、インフレとなるタイミングで財政支出拡大を停止するとともに課税によりインフレを調整するとしているが、実行は難しい。過去においても結局戦争や通貨切り下げ、ハイパーインフレによって実質債務縮小を行っており、上記例では英国のみが増税と経済成長でMMT的債務縮小に成功している。2%の消費税上げに手間取る日本で課税強化が適時に行われるとは考えづらく、MMTとは異なる出口戦略が必要と思われる。逆に一時的な景気対策を同時に行う今回の消費税増税は、将来課税効果を適時に発揮し易い戦略と思われる。加えて、財政支出の質が低いと減価償却により資産の劣化が激しく国の債務膨張が加速するので、質の良い景気対策が求められる。

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