労働生産性と低迷するCPI

黒田日銀総裁が2013年に長引くデフレに終止符を打つとして異次元緩和をスタートさせすでに6年が経つが、未だ日本のCPI(消費者物価)は前年比0.7%と低迷。日銀が目標とする2%は遠く、リフレ派が提唱するマネタリーベースの拡大政策は期待したほど機能していないようだ。

そもそも経済環境が異なる日米欧で同じCPI≧2%を目指すのに無理があるとの考え方もあるが、ここでCPI上昇の条件をいくつか考えてみると、①人口増加②年齢層若年化③原材料価格の上昇④円安⑤過剰なマネー供給⑥賃金上昇⑦国内外の需要増など。日本では①②は逆方向でデフレ要因。③は世界的需給に左右されるが、2014年以降は下落基調でやはりデフレ要因。④は貿易対策として禁じ手、⑤はマネタリーベースは実施済なので紙幣増刷等だがやはり禁じ手とされる。つまり物価対策としては⑥⑦しか残らないが、⑥賃上げ、は商品競争力低下から⑦需要減をもたらすため、結局労働生産性が問題となる。

図1は労働生産性としてユニットレイバーコスト(ULC)のドル換算推移を国際比較したもの。

ここで、ULC:GDP1単位生み出すためのコスト=(平均賃金×生産年齢人口)÷GDP

日本は1990年のバブル期から2010年までULCが米国より高く価格競争力が低かったため、輸出企業の業績が悪化する一方で、国内には安価な輸入品が溢れ国内産業も衰退。

2010年以降日本は、GDPが成長しても他国に比べ割高だった人件費を抑制し続けたことで漸く競争力のあるULCレベルとなったが、代償としてデフレが続いた。近年価格競争力が戻った日本には、海外から生産拠点が戻るなど漸く賃上げ→CPI上昇の条件が整いつつあるようだ。

ところで世界中に安価な商品を提供してきた中国のULC推移を見ると、昨今の人件費上昇とGDP成長率減速で1990年から2000年代のような低ULCの状態は終了し、今後は生産拠点の誘致以外で経済発展を図る必要性がありそうだ。また、次の中国と言われるインドは平均賃金は低いものの、生産年齢人口の割に失業率が高いうえインフラや規制等の社会的コスト高の影響もありGDPが低く、結局ULCが日米中と変わらない。モディ首相の目指すメーク・インディア実現のためには、インフラ整備と規制緩和により労働・資本生産性を上げてGDPを持上げることが必要だ。ちなみにインドのさらに次とも目され生産拠点の移転先として最近人気のフィリピンやベトナムは、UCLが100%を超えている。新興国でよく見られるように、平均賃金は低いものの高失業率や、教育およびインフラ整備等の社会的問題を抱え、現状はインド以上に生産性が低くGDPが低迷していることが原因と思われる。


0コメント

  • 1000 / 1000