米中貿易戦争
米国が対中関税第4弾として中国からの輸入品3,000億ドル分への10%の関税適用を9/1から開始すると発表するなど、トランプ大統領は対中攻撃の手を緩めない。これは5月の米中協議内容のうち技術移転の強要や国内規制に関する部分を中国側が勝手に削除したことに対する報復で、中国側は米大統領選までの交渉引延ばしを狙っていたところで意表を突かれた形。トランプ大統領にとっては対中譲歩が却って支持率低下に繋がる恐れがあるため、強硬路線は変わらない可能性が高い。そもそも米国の対中警戒感の広がりは覇権が脅かされつつあることに起因しており、中国のGDP成長率を6%と仮定した場合、2030年にも中国がGDP世界1位になる計算(図1)。歴史的に覇権国家が入替るときに戦争が避けられない現象を「トゥキディデスの罠」と呼び、前回英国から米国へと入替った1800年代にも米英戦争があった(図2)。今回は米中貿易戦争だが、今後中国が覇権国家となれば、歴史上初めて社会主義が世界標準となる。報道規制を行い反抗する国民に銃を向けた過去に加えて、国際司法で違法とされながら南シナ海の島を埋め立て、軍事利用をしないと公言しながら空港を作りミサイル配備をする国である。覇権国家となった場合の世界的リスクを考慮すると、米国側は現段階で勢力弱体化を狙っているというのが本音と思われる。
一方の中国は米国からの輸入品ほぼすべてに関税適用済みなので、今回の報復措置は米農産品購入停止と為替の元安となった。ちなみに関税分10%を元安で調整した場合、4月までの元レート6.7元/$を7.4元/$まで通貨安とすれば、今回関税分に関し中国側受取り代金も米国側購入代金も以前と変わらない(図3)。関税が無い一般的な場合、通貨安は商品の価格競争力が上がり貿易黒字が拡大するとので、米国は報復として中国を即座に為替操作国に指定した。ただし中国に対してはすでに関税発動済みなので、今回の措置は対中関税の正当化を狙ったものと考えられる。
元安戦略は米ドル債務の返済に関し元建て債務の増加となるため両刃の剣。現在中国企業によるドル建て債券発行残は約$8500億と試算され、通貨安で元換算債務が膨らむとアジア通貨危機の再来となる危険性がある。米国は通貨危機より日本型の静かな経済凋落を狙っていると思われる。
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