タンス預金と現代金融理論

日本では異次元緩和により毎年80兆円を目途として大量の資金が投入されているが、日銀券発行残は総額約115兆円で2009年以降の10年間に30兆円程度しか増加していない。これは日銀が過度な紙幣増発によるハイパーインフレを避けるため日銀券の増発をGDP成長ペースに抑える一方で、当座預金などマネタリーベースで資金投入しているから。つまり日銀券を元にした信用創造による乗数効果(預金保険率0.1%なら1000倍)によって生み出されたお金で大量の国債を購入している。

ところで預金金利低下と相続税対策、およびマイナンバー制度によって資産を把握されることを避けるため等の理由で近年タンス預金が増加しており、足元では合計50兆円程度と見積もられる。これは2009年以降の日銀券増発分を超えており、日銀のセオリー通りであればGDP成長に伴い日銀券が不足しデフレを引起すはずで、実際日本経済はデフレ圧力に苦しんでいる(図1)。加えて、最近よく話題に上るMMTに対し主流派経済学者が指摘する最大の問題点として貨幣増発に伴うハイパーインフレが挙げられるが、この主張が正しければ現在デフレの瀬戸際にいる日本において懸念すべきは、タンス預金による貨幣減少に伴うハイパーデフレということになる。

それでは何故タンス預金を放置するのかだが、そもそも政府・日銀にタンス預金を禁止する権利はない。それでは日銀がタンス預金に相当する金額の日銀券を増発すればよいが、過剰な紙幣増刷は禁じ手とされる上どのように配るかという問題がある。そこで提案だが、以前指摘した通り現在日本では年金支払不足額を補填するため毎年約10兆円の国税が支払われており、この5年分(50兆円)を年金積立金(GPIF)に紙幣増刷で一気に投入するのはいかがか。当面の年金支払いは年金収入とGPIFにより行われるうえ、年金への信頼回復で国民年金で50%とも言われる年金未払いの減少、および老後資金としてのタンス預金の減少が期待できる。経済セオリーどおり紙幣増刷でインフレとなった場合は、市場に戻るタンス預金相当分だけ日銀券発行残を減らす、あるいはMMTのように増税にてインフレ進行を抑制する。ただし日本において増税が難しいのは自明なので、今回の消費税増税のようにポイント還元とのセットとすることで容易にする。つまり、今回限りと言わず来年以降も数回に分けて消費税増税と時限措置としてのポイント還元策等をセットで実施し財政バランス上ニュートラルとする一方、インフレ率上昇時には時限措置のポイント還元を停止し消費税による増税効果を発揮させる。増税にナーバスな日本国民も時限措置としてのポイント還元停止であればある程度納得しよう(図2)。

今の日本経済は大量の国債発行で財政支出を拡大するMMTに似通ったインフレ政策を取る一方で、タンス預金を容認するデフレ政策も同時に取る結果、物価が安定しているとも言えよう。

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