今後の日本の金融政策

一般的に政策金利の引上げ(金融引締め)は景気にブレーキをかけるとされ、経済学の授業では中央銀行は景気が過熱して物価が上昇する局面で金利を上げ、反対に景気悪化局面では下げると習った。これは、金利が上がると民間の借入れが減少し企業活動が鈍化、雇用環境の悪化をもたらすとともに消費も落込み景気は減速する一方、反対に金利が下がると借入が増加し企業活動が活発化して景気が加速するから。したがって政治家には、基本的に景気を良くして支持率を引上げるべく利下げを好む傾向があり、トランプ米大統領や自民党の高市氏などは、物価が多少上昇していてもあからさまに利下げを推奨する。  

しかしながら近年、金融政策が景気や物価に教科書通りには作用しない例が見られる。例えば日本は、ゼロ金利政策を30年近く続けたがデフレ経済から脱却できず、一方でブラジルは足元で政策金利を15%近くまで引上げたにもかかわらず、GDP成長率は前期比1.4%と加速中で経済は力強さを維持する。

これは金融政策の効果が行き渡るにはタイムラグがあることも一因ではあるが、古典的経済学が現代社会に合致しなくなってきたことも背景にあると思われる。例えば、2010年代に日欧では古典的経済学では通常あり得ないとされたマイナス金利政策まで採用した。但し、マイナス金利政策に対する米経済学者の評価は厳しく、現在検証中ではあるものの効用には疑問符が付く。ところで古典的経済学が通用しなくなった理由の一つとしては、民間部門の資金余剰がある。日本では、家計と企業部門がともに資金余剰の状態にあり余剰額は合算で約2,200兆円、対する政府部門が借金経営が続く。つまり日本で金利をゼロ近辺にまで引下げても活性化するのは政府だけで、民間は「流動性の罠」に陥っており、金利収入減を考慮すると経済効果は却ってマイナスである。加えて、政府が低クーポン国債発行による財政支出拡大により不振企業への補助金を増やすと、低成長企業が温存され社会全体の生産性は低迷、結局政策金利に近付く。これが失われた30年に発生していた事象とも考えられる。

図1は、日経平均、5年金利と無担保コール金利の30年間の推移だが、定期預金金利や貸出金利の基準となる5年金利と日経平均の連動性は高い。金利と株価は卵と鶏の関係にあり、足元では景気が良いから利上げ期待で金利が上昇しているとも言え、政策金利に近い無担コールは日経平均に遅行する一方、5年金利の同期性は高い。実際、日本企業のROEが10%に近付く中、政策金利が現在の0.5%でも2倍の1%でもビジネス判断に大きな影響を与えないのかもしれない。つまり、民間部門の活力向上と同時に、政府部門のワイズスペンディングが望める利上げは、今の日本の超低金利社会には多少苦くても良薬なのかもしれない。

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